2017年12月26日火曜日

2017年音楽ビジネス重大ニュース〜EnterTech&Global篇〜

<2017年音楽ビジネス重大ニュース〜EnterTech&Global篇>
第1位)QQmusicの台頭〜中国音楽マーケットの「出現」
第2位)Spotifyがブロックチェーン会社を買収。AppleはSHAZAMを傘下に。
第3位)チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞
第4位)スマートスピーカー各社発売
第5位)アリアナ・グランデのコンサート会場でテロ、2週間後に追悼チャリティ・ライブ
圏外)ポストEDM広まる。海外と日本のトレンドのズレ


山口:2017年の重大ニュース。前編は日本の音楽業界ということでやってみて、多くの方に読んでいただけたようです。後編はグローバル+エンターテック分野でやってみましょう。最初は1回にまとめてやろうと思ったんだけど、なんか焦点距離があまりに違うというか、話がずれる気がして、前後編にジャンルでわけることにしました。海外市場ってなった瞬間に、エンターテックな話になるし、エンターテックにフォーカスすると話がグローバルになるよね。

脇田:音楽は国境を超えるといいますから、国外にも目を向けたいですね。特に新しいテクノロジーによって音楽ビジネスはすごいスピードで変化していってますから。


第5位)アリアナ・グランデのコンサート会場で自爆テロ、2週間後に追悼チャリティ・ライブ

山口:米ソの冷戦が終わって世界が平和になるかと思ったら逆で、様々な要因が重なって以前より不安定になってるよね。イスラム過激派のテロも世界中で起きている。人がたくさん集まるところが狙われているという意味では、コンサートも標的になるリスクがあるのだろうね。今回の会場はイギリス・マンチェスターでした。ワッキーがこのニュースで注目したポイントはどこ?

脇田:アリアナ・グランデのコンサート会場でのテロは、本当にショックなニュースでした。10代の若い子たち等多くの人が犠牲に遭いました。しかし、それから僅か2週間後にスタジアムで、世界的なスーパースターを集結させて追悼コンサートを開いたわけです。仕掛け人のスクーター・ブラウン(アリアナやジャスティン・ビーバーのマネージャーでもある)に注目したいですね。PSYの「江南スタイル」にも関わった彼は、SNSと既存メディアを巧みにミックスするスキルを持った“ニューミドルマン”です。まさに“ニューミドルマン”である彼の、一世一代の大イベントだったと思います。多くのスーパースターが出演するフェスを、テロという危険の中この短期間で実現させ、メディアを使って発信し、収益の寄付なども行なう。それを成功させたことにとても驚きました。もちろん発信するメッセージも熱く、考えさせるものに満ちていました。

山口:音楽の価値、社会におけるアーティストの役割がわかっている行動だよね。ファンへの感謝、社会への貢献を行なうと同時に、アーティストとしてのブランドを上げることにもつながったと?

脇田:そうですね。ティーン・スターのアリアナが世界に影響を与える「アーティスト」へと階段を上がったんじゃないか?と思い、来日公演も観に行きました。そこは、カリスマというより、普通の(?)一級のプロフェッショナルなエンタテイナーという感じのショーでしたが(笑)。


第4位)スマートスピーカー各社発売

山口:2000年以降、コンテンツ流通の主戦場はスマートフォンになり、ウエブサービスもPCから「スマホシフト」が上手にできるかどうかで、隆盛が決まる時代だよね? ニコニコ動画の影響力が落ちているのも、スマホシフトの失敗といえると思う。一方で、「ポストスマホ時代のコンテンツプラットフォームが何か?」というのが投資家や事業家の間で
は議論されていて、一時期はウエアラブルだったんだけれど、ここに来て、音声認識技術+クラウドAI(人工知能)とセットのスマートスピーカーが本命っぽい感じになっているね。

脇田:ネットのエンタメにおいて、PCからスマホへのシフト(ガラケーからスマホも)は明暗を分ける変化でしたね。IoTやVRは、一般利用者にとって無くても困らないですが、徐々に影響を与えて行っている。
そして、次に来るのがスマートスピーカーだ! というトレンドが煽られて、自分としては驚きと喜びを感じました。スマホでイヤフォン、ヘッドフォンでのリスニングが主流になっていて、世の中から家で音楽を流すオーディオ装置が消えてしまっていました。このスマートスピーカーが、音楽の復権につながるんじゃないかという期待をしてしまいます。

山口:そうだね。ヘッドフォンでしか音楽聴かない若者も多くなっていると思うんだけれど、リビングルームにスピーカーが鎮座しているということは、音楽の接点は間違いなく増えるものね。ただ、心配なのは、今回も騒がれているのは、Amazon Echo、Google Home、そしてApple。LINE Cloverには頑張って欲しいし、SONYも計画しているらしいけれど、アメリカ系グローバル企業にポストスマホ時代のコンテンツプラットフォームを牛耳られるのは、日本のコンテンツ産業としては由々しき事態だよ。スマホ時代の今はゲームのルールは、AppleとGoogleに一方的に決められてしまっていて、異議申立の方法が無い。例えば、iPhoneアプリをリリースしようとして、却下されて、理由がわからず、英文メール以外問合せ方法が無く、困っている日本のスタートアップとかは惨めな思いをさせられているよ。スタートアップでスマホアプリが3ヶ月遅れるって、下手すると会社潰れかねないからね。生殺剥奪権をグローバルプラットフォーマーに握られるのは最悪の事態。スマートスピーカーは音声での言語認識技術が重要で、日本語については日系企業にアドバンテージがあるはず、NTTが世界最高の技術を持っているので、せめてそこだけでも押さえて欲しいよ。

脇田:同感です。着うた時代でも、世界同一性を求めるiTunesに比べて、レコチョクはかゆいところに手が届く細やかな対応をしてくれてました。なんでもかんでもグローバルでいいはずはないです。

山口:ジョブズは、ウォークマンとiモードから、iTunes Music StoreとiPodを考案したと言われているけれど、多分本当だと思う。日本の良さを活かしながら、グローバルサービスのプラットフォームを意識するような流れは欲しいよね。日本のスタートアップに期待しています。オープンイノベーションスタイルで大企業と組めたらチャンスあるはずなんだ。

圏外)ポストEDM広まる。海外と日本のトレンドのズレ

山口:第3位に行く前に、ワッキーが取り上げていたこの話題を

脇田:今年は「EDM」の音楽的な流行が終わったと言われました。アッパーなEDMチューンはヒットチャートに登場しなくなり、同様のエレクロニックなジャンルでは「トロピカル」だったり、レゲエ調? のダウンな曲調が増えたように思います。カルヴィン・ハリスの最新アルバムがファンクなアルバムだったことも、話題になりました。問題は、日本はこれからのジャンルなのに、海外では終わってしまった事です。
おそらく2010年ぐらいからずっと流行り続けているEDMが日本で火が付いたのはこの1、2年だったので、最近EDMにハマった日本のパリピ的なファンにとっては、あのアゲな刺激が新曲という形で味わえなくなってしまいましたね。今のエレクトロニック系のヒットソングは「まったり」してます。あとラテンが流行ったり、ついていけないですよね。アリアナのライブでも、ZEDDと共演した「Break Free」というアッパーEDMチューンが、ダウンなアレンジされていて、その時の会場の残念な感じも印象的でした。あれこそが、世界のトレンドと日本のリスナーとのズレの象徴的な場面なんでしょう。

山口:先を見るクリエイターは4年くらい前から、ポストEDMサウンドを探しているよね。「トラップ」だったり、「フューチャーベース」だったり、いろんなジャンルが注目されたけれど、「トロピカル」は本格的に盛り上がっている感じはするね。ただ、EDMって、踊らせる音楽と言うか、マネタイズポイントはフェス型イベントでしょ? そこはどうなんだうね?

脇田:むしろフェスや現場は、多様なトレンドに対応できてる気がします。メインストリームなPOPSとしてのEDMと現場が離れてきたように思います。逆にポストEDMサウンドを探してきたJ-POPクリエイターは、今から「ドEDM」やってみるとおもしろい。過去にもJ-POPでは、海外で流行りが終わったスタイルで大ブレイクを果すアーティストが多くいますから。


第3位)チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞

脇田:アメリカ、シカゴのラッパー「チャンス・ザ・ラッパー」がグラミー賞を受賞。楽曲を販売したことが無いアーティストとして、初の受賞が話題になりました。2016年5月にリリースされた自身名義の3作目となるミックステープ『Coloring Book』が、ストリーミングのみのリリース作品として初めてのグラミー賞を受賞ですね。これまでは楽曲を販
売しないとノミネートされないルールでしたが、この作品によってルール変更されました。
 彼は、ミックステープと呼ばれる無料ダウンロードサイトからスタートし、ストリーミングのみで配信するという作品発表のスタイルで数々の記録を作り時代の寵児となりました。過去には、無料ダウンロードのデータを勝手にiTunesにアップされビルボードランクインするという「事件」で名を上げました。今回のグラミーも、型破りなノミネート~受賞を達成したわけです。

山口:デジタル時代の申し子だね。同時に、ニューヨークやLAではなく、シカゴというのにも注目だ。10月に韓国の音楽ビジネスカンファレンスに呼ばれて、パネルディスカッションに出たんだけれど、その時のテーマが「都市と音楽」。ベルリンのクラブ関係者、スウェーデンの音楽業界の取り組みと共に、シカゴのHIDEHOUTという有名なライブハウスのオーナーがパネラーで、シカゴは小中学校とミュージシャンが連携して、音楽に触れるようなシステムを長く続けている。町のアイデンティとして音楽を捉えていて、「チャンスが出てきたのは偶然ではないんね?」といったら、嬉しそうに頷いていたよ。ちなみに僕は、主催者からのオーダーで恥ずかしながら「渋谷系」の説明を拙い英語でしてきました。

脇田:山口さんの活動もインターナショナルになっていますね。このチャンス・ザ・ラッパーもそうですが、多くのアーティストが、ミックステープという仕組みで無名から名を上げてブレイクしている。既存曲をリミックスしたり、収録したりする。違法行為に当てはまるケースも多いですが、そこは日本と違いルールに対してゆるいところがあるアメリカですし、ヒップホップやレゲエは、このスタイルが文化として定着していることもあり、プロモーションにもなるので黙認されているようです。
アナログ時代からのヒップホップ系の伝統は、デジタル時代とマッチして威力を発揮しています。ストリーミングが台頭したタイミングでのグラミー賞ノミネート~受賞は、時代を捕えた感はありますよね。

山口:本当だね。そして、チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞は色んな意味でエポックメイキングだと思うんだ。アメリカのミュージシャンにとってのロールモデルがJAY-Zからチャンスに変わるというのはすごく大きくて、日本の音楽シーンにも少しずつ影響が出てくる気がする。「メイクマネー」が一番だった黒人ミュージシャン文化が、お金や名声よりも地元の友人を大事にするという価値観へ変化したのが面白いと思った。結果的には、お金もたくさん入っているんだけれどね。

脇田:ヒップホップ系の「メイクマネー」は基本変わらないでしょう。文化系ヒップホップがサードウェイブみたいな、ここ数年のトレンドとくっついて、アナログなイメージとデジタルな発信を合体させている。それが何年かかけて、遂にオーバーグラウンドで認められたというシンボリックな出来事だと思います。

山口:日本のヒップホップシーンも知っている脇田さんはクールな解釈ですね(笑)。でも、真面目な話、ライブハウス(CLUB ASIA)をルーツに持って、現場感を大切にしながら、グローバル視点を持っているのがワッキーの武器だよね。9月に出版した『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務〜答えはマネジメント現場にある!』にも、そういう脇田らしさを感じたよ。


第2位)Spotifyがブロックチェーン会社を買収。AppleはSHAZAMを傘下に。

山口:海外は完全にストリーミングサービス全盛なんだけれど、各サービスに対して、どんな印象ですか?

脇田:何の記事で見たか忘れましたが、SpotifyのCEOダニエル・エクさんの「SpotifyはIT企業ではない、ITを使った音楽企業だ」みたいな発言が印象深いです。実際にプライベートでも仕事でも使っていますが、この考え方がサービスの隅々まで浸透しているように感じます。「音楽」を重要視している思想のようなものを感じるんですよね。エンジニアと
かの方は音楽の現場に触れる事は無いかもしれないですが、会社の姿勢「音楽会社だ」という考えは一人一人に影響を与えてるんじゃないでしょうか。甘い夢を見ていられるような時代ではないですが、ギリギリのところで「音楽第一」と言いたいですよね。国内のサービスで同じように好感を持てるのはAWAです。

山口:ジョブズがミュージシャンとお友達っていうのは、まあイメージ操作で策略だったと思うけれど(笑)、ダニエルには音楽愛を僕も感じる。そのSpotifyが今年は積極的に動いた年だったね。分配の透明化を図って、ブロックチェーン会社を買収したのは機敏だった。AppleがSHAZAMを買ったのは驚いたけれど、4年前くらいにSHAZAMの役員から聞いた情報によると、その時点でSHAZAM経由で年間1億回くらいiTunesでダウンロードされていたらしいから、ユーザーへの影響力がわかっていたんだろうね。SHAZAMで知って、Apple Musicで即聴かせるという誘導は良い方法だよね。

脇田:SpotifyとAppleが音楽プラットフォームのトップを狙って、しのぎを削ってる。しかし、Appleにとって、音楽はコンテンツの一つなんだろうなと思います。ジミー・アイオヴィンやドクター・ドレーが入って始まったApple Musicですが、音楽愛よりは企業としてのApple愛が優先されている印象があります。GoogleやAmazonもそうですが、「コンテンツ」や「データ」ではなく、「音楽」を扱うサービスを期待します。

山口:まあAmazonやGoogleは、one of communication toolsとしてしか音楽を捉えないよ。だからこそ音楽家側が賢く対処しないとね。あと、Spotifyが中国の巨大なIT財閥テンセントや運営するQQmusicと提携を発表したのも驚いたな。報道によると、最初テンセントがSpotifyを買収しようとして拒否されて、提携になったらしい。おそらく、中国はQQmusicで、それ以外の国はSpotifyでという住み分け戦略なんだと思う。

脇田:ストリーミングサービスの先駆者Spotify、まだまだ注目です。


第1位)QQmusicの台頭〜中国音楽マーケットの「出現」

山口:僕にとっては、この10年くらいで最もインパクトのあったニュースです。違法サイト天国で、海賊盤すら誰も買わないと言われた中国に音楽市場が忽然と「出現」しました。2015年12月、ちょうど2年前に中国政府が国家計画で、自国の音楽産業を2020年までに3000億元(約5兆6000億円)にすると発表。日本の10倍以上だからね。大法螺かとも思ったけれど、ああいう国は政府が旗を振ると動くんだね。巨大なIT財閥テンセントがやっているQQmusicが伸びて、月額約170円の有料会員が3000万人いて増え続けている。3年後には日本の音楽市場を追い抜くという分析が一般的だね。

脇田:アジア圏に巨大なマーケットが生れるという明るいニュースですね。国内だけ見とけばいいという、日本の音楽ビジネスの発想が遂に終わりそうな話です。

山口:どの国にも自国語のポップスがあって、それが5割位のシェアを持つのが一般的。残りの5割を洋楽とK-POPとJ-POPが争う構図になるんだけれど、潜在的には日本のポップスが洋楽とK-POPを上回って全然おかしくない。日本政府も「アジアのストリーミング市場における日本のシェアを25%にする」とか目標立てて旗を振って欲しいな。5年後には、朝鮮半島からミャンマーまでの間の音楽市場が日本の5倍〜10倍になる可能性が高い。単純計算で5倍のマーケットの2割がとれたら、日本の音楽市場が二倍になるということになる。これは凄いことだよ。

脇田: 新しいアジア市場でJ-POPが洋楽やK-POPを上回るのは大変そうですね。

山口:このままの状態では全然ダメだろうね。でも潜在的にはJ-POPが一番だと思っている。理由はアジア人とは感覚的に共通する部分があり、その上で多様性と文化的な奥行きがあるから。ストリーミングサービスって、いわゆるロングテールが長い、多様な音楽が存在できるサービスだから、日本のポップスの歴史と多様性が活きるんだよ。世界的に見ても日本の歌謡曲〜J-POPの歴史は豊富で多様な過去作品もある。文化大革命で切れてしまい、政府の介入も強い中国とは大きな差があるのは間違いない。この優位性はいつまでもは続かないだろうけれど、今は日本に大きなアドバンテージがある。K−POPは特定ジャンルでは優れた作品力があるけれど、多様性には欠けるからね。あとアジアには、感傷的なメロディや「歌謡感」みたいな共通性もあるから、ストリーミングサービスがきっかけで、ミャンマーで山口百恵の曲が大人気みたいなことが起きても不思議はない。

脇田:懐メロのカタログビジネスを海外展開するわけですね。

山口:日本のレコード会社は、ともかく全カタログにメタデータを付番して、全サービスに許諾することを最優先でやるべきだよ。そして1年間位再生データを追いかけて、人気の出そうな曲を、その国の歌手にカバーしてもらうように働きかける。それだけで大きく儲かる可能性が十分にあるんだから。
 これまではレコード会社は宣伝資金力も含めた、新曲のマーケティング力がシェアを決めてきたけれど、これからは旧譜も含めたカタログ力がレーベルの優劣を決めるようになるかもしれないね。

脇田:才能と資金が集まった20世紀のJ-POPの遺産を活用して世界に出よう、と。夢があるような無いような。。たしかにストリーミングは多様な趣味趣向に対応できますので、渋谷系の時代にマニアックなレコードを掘ってコンピが作られたようなニッチな現象がJ-POPで起こることはあるのかもしれませんね。

山口:僕はアジア各国の文化的な状況は「渋谷系前夜」って感じだと睨んでる。もう少しで、洗練されて様々な音楽ジャンルを包括した都市型ポップスが各国で生まれる可能性を感じるんだよね。そうなると日本人クリエイターの活躍のチャンスが広がると思う。
 ただ、実は一つ衝撃的な事実があるんだ。中国はコンサートチケットも含めて、全てのサービスがスマホで完結できるはず。ストリーミングサービスで好きになった楽曲のアーティストのコンサート情報を調べて、チケットを決済して、コンサート会場にスムーズに入場して、ライブの感想をSNSに投稿するみたいなことが、ノーストレスで自分のスマホでできる。でも、日本人アーティストのコンサートを観たいと彼らが思っても、外国語の情報はない、決済できない、電子チケットも遅れている、会場などの情報も平準化されていない、、、、。日本はアジアの中で図抜けて、不便で遅れた国になっているという現実があるんだ。これは「このままだとそうなっちゃうよね」ではなく、まだ顕在化してないだけで、「既に今そうなっている」アジアの中で少なくとも音楽分野においては、ITが一番遅れた国になっているのが、現実なんだよ。メチャメチャ悔しい。
 そんな状況でワッキーは、中国市場でどういう勝負をしようと思う?

脇田:K-POPは、インターネット以降のグローバルな展開が可能な時代に、ヒップホップベースの世界主流の音楽スタイルでネットを駆使して、日本をはじめ国外の市場を攻略した。それは得意な特定ジャンルというより、世界の主流フォーマットで勝負したんだと思います。スウェーデンのポップスも同じ。中国のような海外市場で洋楽、K-POPと競うというのは、この主流フォーマットに挑戦し、もがいていくことなのかなと思います。
 ここ数年、いくつか中国の音楽ビジネス関係者と会ったりして、実際管理楽曲がレコーディングされ中国のレーベルからリリースされたりと、仕事が実現したこともありました。彼らが日本に求めるのは、機材やエンジニアの技術の高さやサウンドクオリティでした。音楽的には歌謡曲はダメ、ループするダンスミュージック前提。これはJ-POPとはズレがある。ではどう勝負するかというと、高い技術とクオリティを持って、世界フォーマットに乗せて、オリジナリティを発揮することでしょう。ぜひ、そういうアーティストを発信していきたいです。

山口:僕は、2006年にタイのバンコクでオーディションして16歳の美少女ボーカリストを選んで日本人と組ませてデビューさせたり(Sweet Vacation)、インドネシアのロックシンガーAiu Ratnaを日本で活動させたり、アジア市場を意識したプロデュースを先駆的に挑戦してきたつもりだけれど、今、中国、アジア市場を視野に入れてアーティストをデビューさせるのは、自信が無いのが正直なところ。成功させる方法論は見いだせるとは思うだけれど、それを達成し切るまでの資金を集める自信が無いんだ。日本の音楽業界の資金調達システムがヘタリ過ぎているからね。
 音楽業界の内側では「ともかくアジア市場開拓です。それ以外やることないでしょ?」と啓蒙活動しているけれど、「音楽プロデューサーとしての山口哲一はどんな風に何を取り組むんだ?」と1年くらい悩んできた。2017年末現在の僕の結論は、「Jポップ流の音楽クリエイター育成法をアジアに持ち込んで、日本人作家とのネットワークも作って、アジア音楽シーンを席巻する」なんだ。5年間取り組んで結果が出始めているプロ作曲家育成の山口ゼミの仕組みを中国、台湾に持ち込んで、日本人作家とコーライティングさせて、アジア中の音楽市場を攻めるという取り組みを2〜3年かけてやろうと思っている。中国企業との協業はリスクが高いけれど、人間同士の信頼関係がちゃんと作れれば中国人は頼りになるというのもあるしね。来秋に山口ゼミ上海校、台北校をつくるべく動き始めたところ。3月には既に活躍している中国、台湾のプロ作曲家を呼んで、真鶴でコーライテイングキャンプをやる予定なんだ。


総評)時代はおもしろくなってる

脇田;振り返ってみると、時代はおもしろくなってる気がしますね。すごいスピードで変化する中国とアジア市場にアンテナをはっておかないと。ダイナミックな時代の到来を期待したいです。

山口:前著『新時代ミュージックビジネス最終講義』にも書いたけれど、今は「ITサービスがわからないと音楽ビジネスができない時代」になっている。15年前までとくらべて、一番変わったことって、マネージャーやプロデューサーが「マネタイズポイント」まで考えなければいけなくなったこと。以前はCDなどパッケージを幹にした生態系がよく出来ていたから、「良い曲作って、多くの人に広める」ということだけ考えておけば、お金は自然に入ってきて、回っていったけれど、今は、ITベンチャーが、無料アプリユーザー100万人いても倒産することがあるのに似て、ちゃんとマネタイズのタイミングと方法まで自分たちで考えなければいけない。そう思わない?

脇田:同感です。一方、いくらマネタイズのノウハウを持っていても、曲のヒットとアーティストのブレイク無しでは儲からないのは昔と同じ。新時代のネットやITのノウハウもマストだし、伝統的なマネージメントや育成のノウハウ、も知るべき。両方必要。

山口:テクノロジー活用は、マネタイズとプロモーション(ユーザーとのコミュニケーション)に加えて、テクノロジーを活用して表現そのものも変わらないといけない。去年から始めたTECHSは、クレイジーなくらい大変なイベントだけれど、プログラマーとアーティストが真剣に向き合ってライブステージを作っていて、熱量はすごく高い。大変だけれど「TECHS」も続けようね。

脇田:ニューミドルマン養成講座の有志がTECHSのWEB SITE「TECHS.media」を盛り上げてくれたり、私たちの取り組みに賛同してくれる人も増えてきています。この記事に興味を持った方や、音楽の仕事でおもしろい事やろうと思ってる方は、ぜひ、講座に参加してほしいです。

山口:それからミュージシャンズハッカソンをやってきたチームで、世界的な音楽ハッカソン「Music Hack Day Tokyo 2018」を2月にやります。日本でMHDやるのは3年ぶり。プログラマー、デザイナー、ディレクターは是非、参加してください。

ニューミドルマン養成講座公式サイト

TECHS.media
TECHS3@SuperDeluxeダイジェスト動画

●Music Hack Day Tokyo 2018 公式ページ

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