2018年2月7日水曜日

そろそろ2020年代の音楽の姿をCarve outしなくちゃね〜MUSIC HACK DAY TOKYO2018で感じたこと

 日本では3年ぶりとなったMUSIC HACK DAY TOKYO2018をオーガナイズした。音楽好きのエンジニア、デザイナー、そしてテクノロジーに敏感な音楽家などから定員を大きく超える応募があって、申し訳なかったけれど、抽選で絞らざるを得なかった。
MHDTokyo2018発表会の様子
 2月2日金曜日の前夜祭は、海外事情に精通した鈴木貴歩さんにエンターテックの最新状況をセミナーしてもらった後、DJ付きでの懇親会。
 3日朝からはレコチョクと朝日新聞メディアラボの2会場を使って、音楽のリデザインをテーマにして20組の作品がつくられた。4日の16時からの発表会は3時間を超えるものになった、その後はみんなで懇親会。
 今回のMHDTのテーマは「音楽・エンタメのリデザイン」。熱量が高い場で、僕自身が大きな刺激となった。

 メインパートナーのレコチョクは、レコチョクラボを作って、新規サービスのトライアルをされている。VRやクラウドファンディングなど信金サービスに意欲的な取り組み。僕は不勉強で知らなかったけれど50人ほどの社員プログラマーがいるそうだ。ハッカソンにも参加してくれていて面白いプロダクトを作っていた。
 レコチョクは、元はガラケー向けサービス「着うた」のために大手レコード会社が共同で作った会社で、現在の筆頭株主はNTTドコモ。日本の音楽業界デジタル分野の正統派本流だ。 
 着うた全盛の頃は日本の市場シェアの約
15%をレコチョクが持っていた。今はdヒッツの売上がメインになってしまっているようだけれど、今回MHDのメインパートナーになっていただいて、若いやる気にあるエンジニア社員がたくさんいることを肌で感じて、心強く思った。音楽業界にとって大きな財産だと思う。今度も連携していきたい。

チームビルドのためのアイデア出し風景
 テクニカルパートナーの各社も意欲的で嬉しかった。富士通はMuFoというサービスのソースコードを期間限定で公開してくれた。音楽分析系の面白い技術をたくさん持っている産総研(産業技術総合研究所)は、スタッフがハッキングタイムにしっかり張り付いてフォローしてくれた。NTTドコモAPIも魅力的だった。音楽系だとSpotifyGoogleなどのAPIがITの人には一般的だけれど、国産で協業の可能性があるドコモのAPI活用はとても有益だと思う。今後も使っていきたい。他にも協力してくださったパートナーの皆さんには深く感謝したい。

 SNSのインフラ化&影響力増、センサー開発技術の低廉化、人工知能のディープラーニングの進展など、テクノロジーが加速度的に進化していく時代の中で、エンターテインメントが目指すべき方向は明確だ。海外に対して周回遅れ、それも2周位遅れて、最近は中国IT企業にも送れを取っている日本の音楽業界は本格的な再構築が死活的に必要だ。
 再編が起きるX年は2021年と判断しているけれど、そろそろ具体的な像を造形しようと思う。エンターテック・エベンジェリストと名乗る僕としては、クエリエーション(創造)、マネタイズ(ビジネス)、コミュニケーション(プロモーション)の3つの面で、新たなあり方、仕組みをCarve Outする使命感を持って取り組んでいきたい。0から創ると言うよりは、彫刻家が石や材木の中に潜んでいる形を掘り起こす作業に近いような気がしていて、Carve outって言葉がしっくりくる。

参加者全員で記念撮影。笑顔が印象的だ
 今回、MHD Tokyo 2018をオーガナイズしたのは、できたてホヤホヤの会社EnterTech Lab Inc.だ。僕が言い出しっぺで、Co-Founderとして関わっている。残りの2人の創業メンバーの本業はプログラマー。僕が2014年に始めたミュージシャンズハッカソンに当時、福井在住なのに、参加してくれて以来の付き合いだ。  Mashup Awardsを率いてきた伴野智樹さんや、TECHS、ミュージシャンズハッカソンを一緒にやってきた浅田祐介さんと一緒に、今回セミナーで登壇した鈴木貴歩さん、審査員をお願いしたクリプトン伊藤さん、斉藤迅さん、ジェイコウガミさん、アソビシステム中川さんといった面々とも連携していきたい。
 EnterTech Labは、音楽に限らず、日本のエンターテインメントの未来を切り開く、クリエイターやプロデューサーや起業家のレバレッジをする役割を果たしていきたい。初仕事だったMHDTは素晴らしいネットワークとプロトタイプができて、上々のスタートだったと思う。

 人材育成という意味では、未来のエンタメに携わる「ニューミドルマン」を生み出すことにも注力したい。
 ニューミドルマンラボはオンライン+MeetUpのコミュニティーをベースによりネットワーク力を強めたいと思っている。 2014年10月のプレ講座から受講経験者は100人を超えている。時代の音楽ビジネスを志向するという共通認識は持てているはずだから、それぞれのフィールドで蓄えているであろう力を結集することができれば、日本の音楽ビジネスを良い方向に持っていけるかもしれない。
 1月からオンラコインコミュニティを始めている。3月まで無料でテスト運用しているので、是非、参加してみてください。外には出せない情報の共有や、メルマガでPick Upしたニュースを踏み込んだ解説や議論も展開していくつもりだ。



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2018年1月3日水曜日

Z世代に捧げる!2021年以降の日本人サバイバル術〜デジタル音痴なオトナに騙されないで!

 作秋は自分が主宰するセミナー以外に依頼された講座が7つあった。テーマは音楽ビジネスに関するものだったので、自分の中の引き出し、これまで用意した資料のアレンジで対応するつもりだった。著書の出版以来、「講演の依頼は原則的に全部引き受ける」と決めている今の僕は、スケジュールが大丈夫なら、詳細は考えずにお受けしている。2週間位前から、資料作りをはじめるのだけれど、一つだけ困った講座があった。順天高校のGlobal Weekだ。 
これまでの僕は、既存の音楽ビジネスで頭が固くなった人をほぐすような話をする場面が多かった。大学生に対しても音楽業界の現状から話を始める。

 ところが、高校生となると2000年代生まれ、アメリカ社会学者的に言うとGeneration Zだ。2013年に『世界を変える80年代生まれの起業家』というインタビュー集を刊行している僕は80年代、90年代生まれののY世代とは起業家、音楽家を中心に、日常的にコミュニケーションがあるけれど、Z世代は未体験ゾーンだ。一般的な高校生に今の日本音楽ビジネスについて語って何か意味があるのだろうか?
 クラウド化してパッケージではなく、スマホでストリーミングで聴くって話をしても「はい。知ってます」で、何の驚きも発見も無いだろう。
 デジタル環境の変化とコンテンツ消費の方法については、ジェネレーションギャップが大きい。60代と10代では常識が全く違うのが今の時代だ。
 2000年代生まれの高校生に対して僕が語るべきことってあるのだろうか?真剣に考えたら見つかった。「オトナに騙されるな。奴らはデジタルがわかってないから、たいていの場合、判断を間違っている」ということを伝えようと思った。大きなテーマで、消化不良だったかもしれない。改めて年始にこのテーマをブログにまとめておきたい。
 題して、「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル術」 だ

 その前に、今日のテーマとも関連がある、前回の「独断的音楽ビジネス予測2018」に書き落とした中国、アジア市場の話をしたい。2015年12月中国政府の国家計画の発表以来、それまで違法サイト天国だった中国に音楽市場が「出現」したことは前回書いた。中国の「IT財閥」テンセントが運営するQQmusicはSpotifyと同種のフリーミアムモデル、オンデマンド型のストリーミングサービスだが、月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人超したと言われている。寸年で日本市場を規模で凌ぐだろう。

さて、有料音楽ストリーミングサービスが中国で広まっていることで、起きていることがもう一つある。御存知の通り、中国はスマートフォンの普及率が高く、決済などもすべてスマホで完結する仕組みができあがっている。中国の音楽ファンは、QQmusicで聴いた楽曲がきっかけでアーティストが好きになると、そのアーティストの詳細を知り、コンサートに行きたいと思えば、電子チケットを買い、コンサート会場に行き、SNSで感想を述べつつ、感動した勢いでアーティストグッズを買う。これが全部、自分のスマホ内で完結する。おそらく多くの中国人にとっては、自然な行動だろう。

 でも、もし日本人のアーティストが好きになったらどうだろうか?コンサート情報が日本語以外で得られることはめったにない。スマホ決済もできないので、コンサートチケットが買えない。コンビニ受け取りって言われても。それでも数々の障壁を超えて、コンサートを観た後に思うだろう「日本ってなんてITの遅れた国なんだろう」。音楽を聴いたり、アーティストの情報を得るのに障害が多過ぎる。正月に、ウエブ上にジャニーズ事務所のタレントの写真がアップされたことを驚きとともに伝えるニュースがあったけれど、いくらなんでも時代にズレすぎだ。

 一方で、日本人の普通の感覚として、ITサービスで、中国やASEAN諸国に大きく遅れを取っているという認識はないのではないか?少なくとも音楽ビジネスにおいては、日本はアジアで最も遅れた国になってしまっているかもしれない。僕は音楽業界人の端くれとして、そのことが心の底から恥ずかしいし、悔しい。これは、「このままだとそうなってしまうから警笛を鳴らす!」という近未来の話ではない。まだ顕在化されてないだけで、2018年1月現在「既にそうなってしまっている」事態だ。
 僕が主張しているように、インバウンドの分野でコンサートが貢献できるとしたら、この問題をクリアにしなければならない。ユーザー向けのITサービスの後進国日本、そんな時代に僕らは生きている。
そして、ついでにいうと、日本は中国市場を無視してビジネスすることがあり得ない時代だというのも常識と言ってよいだろう。
 ネット言論に多い、無知と偏見に満ちた「嫌韓論」は、反吐が出るほど大嫌いだけれど、クールに考えれば、韓国とは付きあわないという選択肢はあり得ると思う。市場も小さいし、経済的な補完関係もあまり大きくない。文化的、政治的に摩擦があるなら、避けて通ってもそれほど大きな損失があるとは思わない。でも、中国は違う。
 世界最大の消費市場が、すぐ近くに存在していて、その国とは文化的な共通項も多く、日本のポップカルチャーに魅力を感じる若い世代もたくさんいる。日本が培ってきた、西洋型のルールやカルチャーを東洋流に昇華している、いわゆる「和魂洋才」なやり方は、アジア各国に参考になるはずだ。著作権ルールや新しいポップスの創り方など、日本流がリファレンスとしてアジアで貢献できることは多い。中国と連携できたらメリットは計り知れない。
 
 さて、今日のテーマはZ世代の日本人サバイバル術だ。 僕が2000年代生まれの彼らと向き合って伝えたかったことは、以下の通りだ。当日の投影資料を並べてみよう。

 テーマ1「オトナ達はわかってないことを知る」

 ・情報のデジタル化、インターネットの発展、IoT、人工知能(AI)など、近年に起きている社会、産業の変化は、本質的かつ不可逆的な人類史上でも稀にみる大きなものである。
 ・ところが、(特に日本の)大人達は、気づいてなかったり、認めたくなかったりする。
 ・企業もメディアも(学校も)そんな大人達が制御しているので(特に年功序列型の日本においては)これまで起きてきた過去が未来も続くという前提の言説が広まっている


自分達の当たり前が、大人には驚異的変化だと知っておこう。


 彼らの親や教師や働き始めた時の上司で、デジタル化に対して適切な言説を持っている人は日本では少数派だろう。素直な子だと、オトナの多数派の意見を正しいと思ってしまうかもしれないと心配になった。


テーマ2:未来は予測できないが、予見はできる

・半導体やコンピューター、センサリング、人工知能などの発展は、20年位先までは、どんな方向に世の中が進むことは予見できる時代になっている
・世界各国の人口構成や産業規模も20年位先までは、予見可能だ。自分の頭で考えて、きちんと未来を見通そう


未来を予見して、行動を決めることが重要な時代になっている


 これは僕の持論で、今は未来予見が可能な時代だ。20年はちょっと言いすぎかもしれない。10年位の世の中の流れは自明なことが多い。


実例:エンタメ産業視点で今起きている3つの変化

 •クラウド化 ⇒「所有」から「利用」にユーザー行動が変化
 モノのオンライン化(IoT)⇒ リアルとネットが繋がり、一体化
 ソーシャルメディアの発展 ⇒ すべてのユーザー行動が可視化

 この3つの変化によって、
あらゆるエンタメ・コンテンツ産業が、自らの役割や社会における意義を「再定義」し、ビジネススキームやノウハウを「再構築」する必要に迫られている。

これはいつも言っていることだ。Z世代向けに付け加えたのは以下だ。


今日のテーマ3:旧世代の価値観を理解し、受け入れる

 •クラウド化 ⇒ エンタメコンテンツはパッケージメディアで楽しみたい。そこに思い入れ、深み、記憶、愛情を感じる
 •モノのオンライン化(IoT)⇒ なんでもネットでやることに抵抗感がある。物をネットで動かすことがピンとこない 
 •ソーシャルメディアの発展 ⇒ オンラインだけの人間関係は偽物だ

できれば変化を忌避したい、一時の流行だと思いたい。少なくとも自分は関係なく生きていたい

 こういう価値観、行動原理になっている日本人ビジネスパーソンをたくさん見る。日本の病巣と言ってもよい。僕らは必要に応じて、説明したり、説得したり、無視して進めたりできるけれど、若者たちはどうだろう?理解不能で、すごいストレスを感じるのではないだろうか?
 パッケージを愛好することは嗜好だから良い。(音楽プロデューサー的に言うなら、とてもありがたいことだ。)でも、そこに過剰な意味を求めて、音楽を愛好することを宗教の宗派のようにすることは間違っている。多様なエンタメの楽しみ方を許容するべきだし、そこに新たな可能性を感じるべきだ。

 ちなみにプロジェクター資料には書かなかったけれど、口頭では、「君らの年齢なら、日本を離れて仕事するという選択肢はあるよ。サンフランシスコでもニューヨークでも、シンガポールでも、ベルリンでも、その選択肢も持って良いと思う。でも日本に生まれた日本人なら、今日の話は意味がある。そして日本社会で仕事をするなら、知っていた方が良いと思う、と。

 その後に、自動車がエンジンにハンドルとシートが付いた乗り物から、OSでコントロールされる乗り物に変わるという話や、ブロックチェーンの可能性などを実例として挙げた。

 その上で、

今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜国際的に見た日本社会の特徴は?

 •コンセンサス積み上げ型の社会⇒「みんなで話し合って、良き落とし所を見つけましょう」な仕組み
 •性善説の考え方、仕組みが好き
 •年功序列で、目上の人を敬うという東洋的文化がある
 •同質性が高く、島国であることと、言語の壁があることで国際競争から守られている(ように見える)
 •社会的インフラが整備され、勤勉でマナーがよく清潔で安全な国。

 必ずしも悪いことばかりとは思わないけれど、過剰に同質性を求める日本社会の功罪は客観的視点で理解しておいた方がよいだろうと思う。例えば、学校での「いじめ問題」には個人的にはあまり興味無いけれど、根っこには同じものを感じる。


今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜確実に訪れる日本の危機は?チャンスは?

 •少子高齢化社社会で、人口が減る、消費市場と労働人口は下落していく
 •なのに、制度的にもマインド的にも、移民受入れの準備ができていない
 •日本の強みだった、従来型の製造業では勝ち目がない
 イノベーションのジレンマを知る(Apple 対 Spotify、中国のスマホ向けサービスの方が日本より便利)
 •1500年以上の歴史と伝統が世界中(のインテリ層)から尊敬されている

 観光立国を意識して、食やファッションも含めた文化を売り物にする〜消費者(ユーザー)の質が高いことを如何に活用するか(UGM、二次創作等)が重要だ。


 人口が減り、従来型の産業構造のままでは国際競争に敗れて、プレゼンスが下がっていくこと。カルチャーとインバウンドが日本の武器になっていくことは理解して欲しい。


今日のテーマ4:グローバル視点で日本人の危機とチャンスを知ろう〜Z世代に必要なマインドセットは?

 •組織依存しない、インディペンデントに自分の価値を磨く
 •就職と起業を同列で検討する。スタートアップ生態系が日本でも経済構造の(重要な)一部を占めるようになってきている
 •海外市場の視点と、そこにおける日本人としての優位性を意識する

 •英語はマストスキル。必ずしも英語ネイティブスピーカーになる必要はない。翻訳技術は臆さずに活用する
 インターネットとデジタル技術による「民主化」という概念を知る

 おそらく彼らの親世代は、今でも大企業への就職が安全という固定概念から抜けられない人が多いだろう。人生観は自由だし、公務員になれば、安全かもしれない。(彼らの世代だとそれすら怪しいとも思う。)でも、30年前とは様々な前提が変わっていること、親世代はその変化に自分の価値観をアップデイトできてない場合が多い。きちんと自分の頭で判断して欲しい。
 英語はできるにこしたことないけれど、Google翻訳もどんどん便利になっているので、技術も活用してコミュニケーションすることが大事だ。

 推薦図書として、池上彰、佐藤優、野口悠紀雄の3人の名前を上げた。気になるテーマについて書かれている入門書的な本の時に、きちんと本質を書く信頼できる書き手だからだ。
 40人くらいの高校生が僕のメッセージをどんな風に受け止めたかはわからない。でも話していて手応えはあった。5年後くらいに、何人かの役に少しでも立てたら嬉しい。

 そして、僕が最終的に語りたいのは世代論ではない。70代でもデジタルの変化をわかっている方はいるし、20代でも鈍感な人もいる。日本のピンチとチャンスを共有して、グローバル化したコンテンツ市場で、サバイブしていく仲間を増やしていきたい。
 実はZ世代だけの課題ではない。人生100年のライフシフト時代と言われている中、すべての日本人がグローバル化した世界でどのようにサバイブしていくのか?切実な問題として、引き続き考えていきたい。

 2月から始まるニューミドルマン養成講座のテーマは「超実践アーティストマネージメント篇」だけれど、基本姿勢としての中国市場への向き合い、日本のデジタル化の遅れによる課題はしっかり話し合いたいと思っている。

●ニューミドルマンラボ公式サイト

2018年1月1日月曜日

独断的音楽ビジネス予測2018:犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!

 全然勤勉ではないこのブログだけれど、2012年から毎年元旦に、音楽ビジネスの予測を書いてきた。毎年PVも高く、ご意見なども伺うので、励みになって続けている。
 昨年は、1年間の予測は意味が無いと書いた。世界的に音楽、エンタメビジネスのトレンドは7年くらい先までは明確で、周回遅れで走っている感じの日本は、五輪景気に甘えて、構造的な変化が遅れるけれど、方向は同じ。世界のトレンドの後を、ゆっくり追いかけていくことになると思ったからだ。この予測については1年経って、確信を深めるばかりだ。
 昨年の元旦のブログではこんなこと書いている。

 2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、
1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。
2)   パッケージは微減しながらも健在
3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく
といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 上記の1と2はまったくそうなっている。3については補足説明が必要だ。2016年のコンサート入場料売上は10年ぶりに微減した。「2016年問題」の影響でコンサート入場料収入が微減したことだ。「2016年問題」とは2020年の東京五輪の余波でコンサートに使える大型スタジアムやホールが同時期に改修に入ってしまい、コンサート会場が不足するという問題だ。音楽業界団体は問題提起をしたものの、その声は届かなかったようだ。

 正直を言うと僕は、各社の創意工夫でなんとかやりくりし、コンサート売上が減りはしないのではないと思っていたが、甘かったようだ。スタジアム運営側は、スポーツ最優先で、「空いている時にコンサートも使っていいよ」くらいの認識なのだろう。コンサートが日本の産業文化にとって大きな価値があるということを日本社会全体に認識してもらう必要がある。音楽業界側もその努力が足らなかったように思う。2017年の国内重大ニュースの1位に上げた「チケット二次流通問題」で、業界が一団結して、ユーザー、行政、警察、司法をきちんと動かすことができた。風営法改正からナイトエンターテイメントへの関心を高める運動も進展している。大規模コンサート会場の運営者の意識変革を図ることもできるのではないか?

 さて、1年前に僕が本コラムで問題提起した2021年までやっておくべきこと3つについては、残念ながらほとんど進展はない。暗澹たる気持だけれど、確認しよう。

●データベース構築
 音楽に関するあらゆるデータ、楽曲、原盤、アーティスト、コンサートなどを一元管理および多言語化して、事業者に従量課金で使用を自由に認めれば、素晴らしい音楽関連情報サービスはたくさん競い合ってくれるだろう。音楽事情の活性化に必ずつながる。僕は10年位前から叫んでいるのだけれど進んでいない。音制連、音事協、MPAで始めた海外向けのアーティスト情報プラットフォームSync Music JapanがCiP協議会に移管されて、Artist Commonsという動きにまとめられているけれど、too much slowだ。まだ実業レベルで稼働していない。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

●中国市場への本格的な取り組み
 については、まだ手付かずの状態だ。ビジネスの主戦場を海外に向けるという意識改革ができてない。

 残念ながらという前置きをつけたいけれど、僕が2015年9月に出版した新時代ミュージはックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!〜』は、2018年になった今読み直しても、全く古びてない。それは僕が著者として素晴らしかったのではなく、日本の変化が遅すぎるからだ。音楽ビジネスの現状と未来に興味のある人で未読の方は、是非、読んでみてください。「残念ながら」まだ有益な本です(笑)。
 一番の問題は2021年に先送りしたツケが全部噴出だろうことで、そろそろ底に向かって準備をしておかないと、本当に日本の音楽業界が壊滅的なことになるなと危機感を持っている。そんな愚痴ばかり言っても仕方ないので、少しは読者に有益と思える未来予測を書こうと思う。

 作秋は様々なところからセミナーのお声がけを頂いて、7つほど講演を行った。

韓国のBupyeong Music Conference
大阪電気通信大学 総合情報学部
大阪工業大学 知的財産学部
順天高校 Global Week
電機連合組合
コンテンツビジネスラボ
知的財産技能士会

 新しい出逢いがあり、刺激をいただく場で感謝している。2011年に初めて著書を刊行して以来、講演などの依頼は原則断らないという方針を続けているけれど、書籍やウエブで僕の存在を知って、呼んでくださるのはありがたい。自分が主宰するセミナーもあって、本業もある中でお受けしているので、正直時間的には厳しいこともあるけれど、エネルギーをいただいて、疲れが吹っ飛ぶ。
 その経験も踏まえて、今後の音楽ビジネスについて、年頭にポイントをまとめておきたい。キーワードはX-techだ。
 X-techとは、IT技術の活用で産業が再定義、再構築されていくことだ。背景にあるのは、以下のような時代の変化だ。

・コンピューターの処理能力の飛躍的な進化
・センサー技術進化による、軽量化、コモデティ化
・AI(人工知能)、機械学習の飛躍的向上
・SNS普及によるユーザー行動の可視化(いわゆるビッグデータ分析)

 ポイントは、本質的で不可逆的な変化であることだ。人間は、昨日まで自分がやってきたことが明日以降も続くと思いたい。それが10年、20年とやってきた仕事であれば尚更だ。「一時的な流行にすぎない」「自分には直接関係ない」ということにしたくてたまらない。日本の音楽業界、メディア業界はまさにその典型で、レコード会社の経営者は、自分の定年まで大枠を維持する「逃げ切り」作戦に終止している。これが結果として業界全体、ひいては日本の国力を下げているのだ。
 僕がエンターテック・エバンジェリストと名乗り始めたのも、社会が変わる一番重要ポイントで、そこを自分のアイデンティティにすべきと思ったからだ。
 ちょっとシニカルな言い方をさせてもらえば、日本の業界の多数派が、「見ないふり」をしているので、「きちんと未来を見据えて予見」すれば優位性を持って、先回りできるとも言える。 
 本ブログの読者には、そんな発想で、先回りできる5つの視点を共有したい


●ストリーミングサービスが音楽消費の中心になると起きる変化は?


 ビジネスとして一番大きいのは、新譜旧譜の比率の変化だろう。従来の原盤ビジネスは売上の9割が1年以内に発売された新譜だった。だから小プレーションアルバムとかベスト
盤とか、過去作を「新譜」扱いにする必要があったのだけれど、これが大きく変わるおそらく新譜は5割以下の比率に鳴るだろう。これは良い作品をつくれば長期間収益があるということであると同時に初期投資の回収に時間がかかるということでも。功罪はあるだろうけれど、対応スべき変化だ。
 併せて、ユーザー行動が可視化されて、蓄積されることに寄って、レコメンデーションの精度が上がっていく。5年くらい前から海外のサービスのテーマは「ディスカバリー」だ。ユーザーと新しいアーティスト、楽曲の幸せな出逢いを作ることに注力している。これは主にアルゴリズムだけれど、属人的なリコメンデーションがプレイリストだ。人気ラジオ番組でパーソナリティが思い入れを持って薦めることヒットしたみたいなことがストリーミングサービス内でどんどん起きている。従来に比べれば、政治力、宣伝資金力などの入る余地が少なくなり、楽曲の力が求められるようになるので、アーティストにとっては大まかには良い変化と思うべきだろう。
 そして、パッケージは音楽聴取の主力ではなくなるけれど、アーティストの証を示す「記念品」、コレクションの喜びを満たす役割を果たすようになっていく。現にアメリカでは、CDは落ち続ける中、アナログレコードの売上が伸び続け、パッケージ市場の3割を占めるようになっている。日本は今のところCDがまだまだ元気だけれど、似たような傾向に向かうことになるだろう。

●VR/AR/MRと音楽ビジネス


 エンタメ全体で言えば、VR/AR/MRの存在感は傑出している。軍事技術との関連もあって、多額の資金がつぎ込まれて開発されてきた分野だ。現状はビジネス的にはゲームとエ
ロの分野が牽引しているけれど、音楽ビジネスでの存在感は大きくなっていく。
 みんな忘れがちだけれど、Music Videoというのは80年代のMTVの隆盛とともに広がったフォーマットだ。表現はメディア環境で変化していく。ハードの進化や普及、プラットフォームが整備されていく中で、MVの進化系、インタラクティブ性のある作品を楽曲に合わせて制作する流れは増えてくるだろう。
 Bjorkが2016年にVR型のMVをつくって日本科学未来館で展示した時の名言が忘れられない。「テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているの。」VR演出自体は、彼女の楽曲力を大きく拡張するところまではできてなかったと思うけれど、パイオニアが切り拓いた道があることで、表現は進化していく。
 ライブビューイング的な活用もどんどん増えるだろう。東京五輪に向けでスポーツのリアルな中継に皆さんご執心だけれど、コンサートへの応用も間違いなく広がっていく。収益性がポイントになるけれど、通信規格が5Gになり、通信会社がこの企画を活かしたコンテンツを積極的に求めるという追い風もある。
 既にリアルとバーチャルは対立概念ではない。東京ドームの2階席でプロジェクターに映し出されたパフォーマンスを観るのがリアルで、目の前に立体的に再現されているアーティストを他の観客と一緒に見て盛り上がる体験がバーチャルだという区別は、おそらく意味がなくなっていく。ユーザー体験としてどちらが楽しいかがポイントになる。
 いずれにしても、音楽家や音楽プロデューサーにとって、VR/AR/MRは必修科目と捉えるべきだ。


●アジア市場とインバウンド


 違法ダウンロードサイト天国で海賊版も作られなくなったと言われていた中国に音楽市場が「出現」したのは驚異だ。正直言って、僕が現役の音楽プロデューサーの間にあるのかどうかと思っていた。2015年12月の国家計画の発表から2年でQQ Musicの月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人などという数字が聞こえてくる。信頼できる知人たちの意見を総合して考えると、控えめに言っても3年以内に日本の3000億円を中国は抜くだろう。僕のイメージでは、5年後位に、朝鮮半島からミャンマーまでの東アジアの音楽市場は日本の5倍位になっていると思う。そして成長余地はまだある。この場合のポイントは、この地域ではJポップ、アニソンに競争力があることだ。
 その国も自国語のドメスティックポップスが市場の5割は占めるものだ。残り5割あるとして、そこを洋楽とJポップとKポップが争う図式になる。アニソン含めたJポップが一番人気になる潜在的な力はあるはずなのだが、今のままだとKポップの後塵を拝する可能性は高い。ストリーミングサービスはいわゆるロングテールが長く、多様性と蓄積のある日本に本来はアドバンテージがある。僕らがよく言う「歌謡曲な大衆性」は東アジアでは共通する感覚だ。個人的にはアジア各国は「渋谷系前夜」みたいな状況だと思う。様々なジャンルの音楽を取り込んだJポップライクなポップスが広く受けいられる土壌はできている。経産省などが旗を振って、アジアのストリーミングサービスにおけるJポップシェアを2割にするという目標を立てたいところだ。やり方は簡単だ。メタデータをつけて、過去の全カタログをアジアのストリーミングサービスに許諾すればよい。半年から1年様子を見て、反応のある楽曲をその国の影響力のあるアーティストにカバーを促す。それだけでヒット曲が生まれる可能性があるのだから挑戦するべきだ。5年後にベトナムで松田聖子の楽曲が大人気みたいなことは全然あり得ることだと僕は思っている。
 ストリーミングサービスが生まれたことで、音楽ビジネスのマネタイズポイントを多様化できることも大きなメリットだ。これまで中国は、いわば出稼ぎ的に、現地で入場料を稼いで、グッズを売って、以上という商売になっていた。ストリーミングサービスがあることでライブの前後で楽曲が流れで、それも売上になり、越境ECふくめた幅広いチャネルでのマーチャンダイジングが期待できる。そして、本当に好きになってくれたら、日本まで「本場のコンサート」を観に来てくれるかもしれない。日本のインバウンドのこれからの課題は、リピーターと滞在日数の延長のはずだけれど、そこに音楽業界が果たす役割は大きい。
 単純計算だけれど、5倍のマーケットで2割取れたら、日本の音楽市場は二倍になるということだ。このチャンスを逃してはいけない。

●ポストスマホのコンテンツプラットフォームは?


 現在、世界中でコンテンツプラットフォームの主戦場がスマートフォンであることに異
論がある人はいないだろう。これから発展途上国を含めて、まだまだスマホ普及率は伸びるから、普及率が100%に近づいていくことの社会的インパクトも大きいと思うけれど、未来を見据える人たちの興味は、既にポストスマホのプラットフォームだ。ひと頃はウェアラブルデバイスだと目されていただけれど、グーグルグラスのようなメガネ型も、アップルウォッチのような腕時計型も広まる様子は見えていない。2018年1月現在、ポストスマホの本命はスマートスピーカーだ。
 2017年は各社の商品が出始め、お手並み拝見という状況になっている。音楽業界にとっては、リビングルームにある「世の中との窓口」がスピーカーであるというのは大きなチャンスだ。音楽が流れることが自然で、接点が増えるはずだから。
 個人的にはこのままポストスマホがスマートスピーカーになるかどうはか微妙なところだと思っている。IoTということでいえば、鏡がついているクローゼットがスマート化して、洗濯機や冷蔵庫ともつながり、買うべき服やレシピもレコメンドされる。スマートクローゼットも例えば有力だと思ったりする。次のフェーズで来る在宅型ロボットの普及が本命ということになるかもしれない。
 現状では。音声認識+クラウド上のAIというのがポストスマホの第一候補になったということを理解して、推移を見守っていきたい。一番大事なことは、スマホのときのように、外資系グロバール企業にこのプラットフォームを完全に牛耳られて、日本のコンテンツホルダーがゲームのルール設定に参加できないような事態にならないことだ。そういう意味でも、LINEやSONYも頑張って欲しい。日本語音声認識はNTTが世界一の技術を持っているはずだ。しっかり戦略を持って対峙したい。

●ブロックチェーンの衝撃。音楽への応用は?


 分散型台帳技術、ブロックチェーンは、インターネットが広まった時に勝るとも劣らない大きな変化を社会にもたらすそうなので、音楽だけでどうこういう話ではない。契約のあり方、取引における信用担保の構造を根本からひっくり返すような技術だ。あまりにも大きな変化すぎて予測が難しい。20年後は、今のブロックチェーン技術の思想をベースにした世界になっていることは、ほぼ間違いないのだけれど、それまでの過程は予測不能だ。
 音楽に関してだけ言えば、著作権、原盤権の徴収分配の仕組みが今の国ごとの集中管理というやり方から変わることは間違いないだろう。10年位はかかると思う。
 僕が個人的に一番関心があるのは、リミックス、二次創作への応用だ。初めてブロックチェーンの存在を知ったときから、「クリエイティブ・コモンズ」の考えかたがビジネスに持ち込める機会がやっときたのだと感じた。一般的になっているようで、リミックス、サンプリング、二次創作には、きちんとしたルールはシステムが無く、個別の相対でやるしかないのが現状だ。原則OKのオプトアウト型のルールが広まれば、新しい表現と市場が大きく伸びることが期待できる。今年は本格的にこの可能性を探る年にしたいと思う。

 ニューミドルマンも3年経って、よいネットワークになっている実感がある。今年からコミュニティ化を図りたい。ニューミドルマン養成講座と並行してオンライン+OFF会のサロンもやっていこうと思うので、興味のある人は是非、参加して欲しい。このブログを読んで面白いと感じる人には意味のある場になっていると思う。
 音楽ビジネスに興味のある人は、まずは2月の「超実践アーティストマネージメント篇」の受講からどうぞ!

 元旦から長くなってしまったので、この辺で終わりにしたい。
 次回は作秋、高校生に話すために考えた「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル〜オトナに騙されるな」をテーマに書こうと思います。お楽しみに。

●ニューミドルマンラボ公式サイト

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2017年12月31日日曜日

アジアデジタルアート大賞展で優秀賞受賞!〜音楽プロデューサーがメディアアート作品をつくった理由

 年末に嬉しい報せがあった。「2017アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA」のインタラクティブ部門で優秀賞をいただいた。TECHS2で披露したSHOSA/所作 〜a rebirth of humonbody』という作品だ。 
 僕が生まれて初めてクリエイティブディレクターと表記された作品だ。音楽プロデューサーとして長年活動してきた中で、「エンターテック・エバンジェリスト」とも名乗るようになったのは自然な流れだった。日本の音楽業界がデジタル社会への変化に臆病で、業界的にも国際的にも取り残されていくという危機感の中で、書籍を出版したり、人材育成のセミナーや音楽家が参加するハッカソン、エンタメ系のスタートアップのアワードなどの場つくりのオーガナイザーをやりはじめるようになって、音楽プロデュサーという職域からははみ出す活動が増えた。大企業の新規事業のアドバイザーをやって、異業種間を、特にスタートアップと結びつけたりするような活動もやらせていただいている。

 新しいテクノロジーでエンタメが変わるポイントは3つだ。マネタイズシステム、ユーザーとのコミュニケーション(従来の言葉を使えばプロモーション)、そしてクリエーションだ。表現そのものもテクノロジーで変化、拡張していく。電化(トランジスタ)がエレキギターをつくって、ロックやポップスが生まれた。デジタル化は、電化以上のインパクトのある変化で、音楽制作を安価にした。民主化されたと言ってもいいだろう。以前なら、10坪以上のスペースと1億円に近い機材が無ければできなかったことが、今や1ルームのパソコンで100万円以下の投資で可能になった。もちろんプロフェッショナル制作システムが無効になったわけではないけれど、少なくとも1/100のコストでの代替案が生じているのは紛れ見ない事実だ。ところが表現を変えるような楽器という観点だとまだ成果は乏しい。強いて言えばボーカロイド。初音ミクというバーチャルスターを生み、新しい音楽シーンと市場を作った。でもエレキギターとアンプに比べれば、まだ影響力は軽微で、これから様々なテクノロジーの進化に伴う新しいツール(楽器)が出てくるはずだと僕は思っている。

 メディアアートへの関心は、そんなところは始まった。実は80年代に高校生だった頃からメディアアートには興味はあった。ナム・ジュン・パイクの作品やエピソードを聞いて友人たちと話題にしていた記憶がある。でもその程度の関心。自分の仕事とは無縁な世界だと思っていた。

ダミン・ハーストの作品
 ところがエンターテックエバンジェリストと名乗り、テクノロジーで表現をエクスパンドするみたいなコンセプトを掲げて表現を眺めていくと、未来への道を切り拓いているのは現代アート、メディアアートの分野のアーティストたちだった。エンターテックとメディアアートは出自が違うだけで、現在地点はほぼ同じ処、右から説明するか、左から語るかみたいな違いしかないなと気づいた。遠い憧れの存在だったARS electronicaには去年、今年と行ってみた、メチャメチャ刺激的だった。従来からのメディアアートの文脈に埋もれて輝かない作品と、時代の息吹を感じられる作品の違いも明快で勉強になった。
 ベネツアビエンナーレも素晴らしかった。アートが時代の先端を走り、未来を牽引しているのだと感じた。世界の最高峰の場所で観て感じることは大切で、NYでオフブロードウエイを観る、パリでクラシックバレエを観る(多分、ウィーンでオーケストラを聴くとか、イタリアでオペラを観るとかも)ことは芸能の神様に謙虚でいつつ、刺激を受けるために必要なことだと常々思ってきたけれど、ベネツアビエンナーレもそれらと同列以上だった。2年後も絶対行きたい。

 そんな中で、1年くらい前から「メディアアート的な発想で作品化してアワードに応募する」という活動をやってみようと思うようになった。ミュージシャンズハッカソン、クリエイターズキャンプ、TECHSと継続的な取り組みをしてきたので、テクノロジスト、クリエイターの人的ネットワークは出来ている。僕が一番の役割である「場つくり」を加速することもできるだろうと考えた。「賞を取る」というわかりやすさは何かを進める時に有効だ。

 ちょっと乱暴な言い方になるけれど、現代アート作品で一番大切なのはフィロソフィーだ。今の社会をどのように捉えて、切り取って形にするのか、どんなメッセージや問題提起を込めるのか、その姿勢も含めて、評価されるのがアートの世界だ。

 僕がやるなら、取り上げるべきは表現とテクノロジーの関係性だ。ライブ表現のシズル感にフォーカスして、「アルゴリズムに支配されたダンスの解放、身体性の復権」をコンセプトにすることにした。高い身体能力と日本女性のしなやかな美をもつSpininGReenに合致したコンセプトでもある。近年はプロジェクションマッピングなどの映像表現とダンスの融合はたくさんあって、素晴らしい作品も多いけれど、「予めプログラミングされた内容、時間軸に演者が合わせる」ものがほとんどで、完成度は上げやすいけれど、ライブのドキドキ感につながりにくいと常々残念に思っていた。時代としてもロボットが人間の職を奪うのではないかと不安が語られていて、人と技術の共存、美しい相互互恵関係が重要になっている。人が技術をリードし、活用して表現を拡張するというアート作品は、そんな時代へのメッセージにもなるはずだ。
 なんでもそうだけれど、言うは易しで作品にするのは大変だった。沢山の人の知恵と汗でなんとか形になった。賞をいただいたことで、少しだけど、報いることができた気がして、実はそれが一番嬉しい。一緒にこの作品をつくった時間に社会的な価値がついてくれたから。

 クリエイティブディレクターをやったのは、この分野の「師匠」である大岩さんのアドバイスだ。僕が弟子を名乗るのがおこがましいほど、輝かしい実績のある方だけれど、僕がこんな事やりたいと協力のお願いをした時に「この分野はクリエイティブディレクターをやらないと評価されない。僕がアドバイスするから山口さんがやりなさい。」と背中を押された。僕は今更、自分自身に名誉欲は無いし、クレジットがなんであっても作品が良くなるたまなら自分がやれることは全力でやる。具体の作業はほとんど変わらないのだけれど、それでもクリエイティブ全体に責任がある立場を宣言することは、紙一重だけれど、やはり気持が違う。僕にとっても貴重な経験になった。大岩さんがいてくれるからやれことなので感謝という言葉では表現できない。

(ちなみに、大岩直人さんの最初の著書は昨年「ニューミドルマン養成講座」にゲスト講師にいらしていただいた時の講座内容をベースにした電子書籍+PODスーパードットなひとになる。〜コミュニケーションとテクノロジーの"今"』(PHP研究所)なのだけれど、2冊目が最近出版された。『おとなのための創造力開発ドリル 〜「まだないもの」を思いつく24のトレーニング』は、掛け値なしに名著だ。ジャンルを問わずクリエイティブな仕事に関わる人は是非、読むべきだ。ロボット工学の石黒浩大阪大学教授のブレイクのキッカケとなったマツコロイドの生みの親としても有名なアイデアマンの大岩さん。この本を読むと、クリエティブな思考回路について学ぶことができる。激オススメ)

 『SHOSA』は「EnterTechLabSpininGReenの作品となっている。EnterTechLabは、ミュージシャンズハッカソン、TECHSでできたネットワークをベースに法人設立準備中の団体だ。代表の伴幸祐は、4年前の第一回ミュージシャンズハッカソンに福井から参加してくれたのが出逢い。優秀なプログラマーであるだけでなく、ビジネスセンスも併せ持ち、弁説もたち、周りを俯瞰する能力に長けている。彼と一緒にEnterTechLabを作ることで、日本のエンターテック分野をレバレッジしていきたい。次世代型のクリエイターを支援していく仕組みが主なサービスになると思う。
 ETLの法人としての初仕事は、2月3日4日に日本で3年ぶりに行われるMusic Hack Day Tokyo2018だ。現在申込み受付中。音楽に興味のあるプログラマー、デザイナーは是非参加して欲しい。

 『SHOSA』には、他にも山口ゼミ1期生でCWFキャプテンのhanawaya、同じくCWFメンバーで、安室奈美恵「Hope」の作編曲で今年ブレイクしたトラックメイカーTOMOLOW。アニソン分野で大御所作詞家になりはじめているこだまさおりなどがクリエイターとして参加してくれている。着物は国際的なコスチュームデザイナー谷川幸さんのオリジナルデザインで、映像とした舞う蝶々も谷川さん作で『SHOSA』の世界観の中核を担っている。田中セシルに似合うデザインだったし、セシル自身による着物を活かした振付も良かったと思う。

 たくさんの優秀なクリエイターの皆さんにお力をお借りしたことで、一つの成果を上げることが出来ました。改めてこの場を借りて、心からの感謝を述べたいと思います。本当にありがとうございました。
 技術的にはマイクロソフトのKInectに加えて、富士通が開発中のセンサーシューズという技術を使っている。富士通さんにも多大なる協力をいただいて本当に感謝です。
 そして、次の作品も構想準備中なので、ご期待下さい!。

 改めて思うのは、従来いろんなジャンルを区別してきた「壁が溶けている」ということだ。僕がメディアアート作品のクリエイティブディレクターをやるなんてまったく想像していなかった。自分が育った音楽業界を再生させるために、エンターテックエバンジェリストとして、異業種や異分野の架け橋となる場をつくっているうちに、いつの間にか、でも自然に、こんなことになった。

 海外のカンファレンスイベントに行って感じるのは、「全部同じ方向を向いている」ということだ。家電の見本市から始まったCES、音楽にはじまってITサービスのインキュベーションの場となったSXSW、広告祭だったCANNES LIONS、メディアアートの総本山であるARS electronica、どのイベントでも、「社会のイノベーションとは?」、「テクノロジーと人の関係とは?」MedTech(医療技術)、BioTech(生物工学技術)を取り込んで様々な議論、実験が行われている。行ったことは無いけれど、通信会社によるMobile CongressもクラブミュージックのフェスだったはずのSonarもそうみたいだ。スタートは全然違ったはずが、今は同じ方向を向いている。将来はまだ分化を始めるのだろうけれど、今は一旦、すべての壁を溶かして、シームレスになって、ガラガラガッチャンと古いものが壊れ、新しいものが生まれていくと世界中の人が思っている。その原因も、未来のツールも進化し続けるテクノロジーだ。そんな時代に、人々をワクワクさせ、時代の気分を醸造し、文化を作るエンターテックの役割は大きいと思う。

 そんな時代に内国の一業種の価値観、いわゆる業界の村的な論理で行動することは弊害が非常に大きい。良い部分をモジュールとして活かして再構築するべきというの僕の意見だけれど、それには新しい発想と熱量を持った人材が必要だ。
  僕が約3年前にニューミドルマンラボを始めた動機が「マジで超アタマにきた」からだというのはこのブログに書いているけれど、世界中の意識の高い人たちが同じ方向を向いているということと「ニューミドルマン」という概念も軌道を同じくしている。従来の壁が溶けていくなら、未来志向のエンタメビジネスを実践的に探っていく運動だ。2018年からはもっとコミュニティ的な動きをしていこうと思っている。オンラインサロン(+OFF会)も作る予定なので、興味のある人は参加して欲しい。音楽ビジネスに興味がある人は、2月に行う『超実践アーティストマネージメント篇』は最適だ。音楽ビジネスをリロードする人たちの参加を心待ちにしています。

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 更新が不定期すぎるブログで、そして今年もブログタイトルを決められないままでしたたが、2017年はこれで終わります。私的なスタンスで見解表明をすることは続けますので、今後もお付き合いください。



2017年12月26日火曜日

2017年音楽ビジネス重大ニュース〜EnterTech&Global篇〜

<2017年音楽ビジネス重大ニュース〜EnterTech&Global篇>
第1位)QQmusicの台頭〜中国音楽マーケットの「出現」
第2位)Spotifyがブロックチェーン会社を買収。AppleはSHAZAMを傘下に。
第3位)チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞
第4位)スマートスピーカー各社発売
第5位)アリアナ・グランデのコンサート会場でテロ、2週間後に追悼チャリティ・ライブ
圏外)ポストEDM広まる。海外と日本のトレンドのズレ


山口:2017年の重大ニュース。前編は日本の音楽業界ということでやってみて、多くの方に読んでいただけたようです。後編はグローバル+エンターテック分野でやってみましょう。最初は1回にまとめてやろうと思ったんだけど、なんか焦点距離があまりに違うというか、話がずれる気がして、前後編にジャンルでわけることにしました。海外市場ってなった瞬間に、エンターテックな話になるし、エンターテックにフォーカスすると話がグローバルになるよね。

脇田:音楽は国境を超えるといいますから、国外にも目を向けたいですね。特に新しいテクノロジーによって音楽ビジネスはすごいスピードで変化していってますから。


第5位)アリアナ・グランデのコンサート会場で自爆テロ、2週間後に追悼チャリティ・ライブ

山口:米ソの冷戦が終わって世界が平和になるかと思ったら逆で、様々な要因が重なって以前より不安定になってるよね。イスラム過激派のテロも世界中で起きている。人がたくさん集まるところが狙われているという意味では、コンサートも標的になるリスクがあるのだろうね。今回の会場はイギリス・マンチェスターでした。ワッキーがこのニュースで注目したポイントはどこ?

脇田:アリアナ・グランデのコンサート会場でのテロは、本当にショックなニュースでした。10代の若い子たち等多くの人が犠牲に遭いました。しかし、それから僅か2週間後にスタジアムで、世界的なスーパースターを集結させて追悼コンサートを開いたわけです。仕掛け人のスクーター・ブラウン(アリアナやジャスティン・ビーバーのマネージャーでもある)に注目したいですね。PSYの「江南スタイル」にも関わった彼は、SNSと既存メディアを巧みにミックスするスキルを持った“ニューミドルマン”です。まさに“ニューミドルマン”である彼の、一世一代の大イベントだったと思います。多くのスーパースターが出演するフェスを、テロという危険の中この短期間で実現させ、メディアを使って発信し、収益の寄付なども行なう。それを成功させたことにとても驚きました。もちろん発信するメッセージも熱く、考えさせるものに満ちていました。

山口:音楽の価値、社会におけるアーティストの役割がわかっている行動だよね。ファンへの感謝、社会への貢献を行なうと同時に、アーティストとしてのブランドを上げることにもつながったと?

脇田:そうですね。ティーン・スターのアリアナが世界に影響を与える「アーティスト」へと階段を上がったんじゃないか?と思い、来日公演も観に行きました。そこは、カリスマというより、普通の(?)一級のプロフェッショナルなエンタテイナーという感じのショーでしたが(笑)。


第4位)スマートスピーカー各社発売

山口:2000年以降、コンテンツ流通の主戦場はスマートフォンになり、ウエブサービスもPCから「スマホシフト」が上手にできるかどうかで、隆盛が決まる時代だよね? ニコニコ動画の影響力が落ちているのも、スマホシフトの失敗といえると思う。一方で、「ポストスマホ時代のコンテンツプラットフォームが何か?」というのが投資家や事業家の間で
は議論されていて、一時期はウエアラブルだったんだけれど、ここに来て、音声認識技術+クラウドAI(人工知能)とセットのスマートスピーカーが本命っぽい感じになっているね。

脇田:ネットのエンタメにおいて、PCからスマホへのシフト(ガラケーからスマホも)は明暗を分ける変化でしたね。IoTやVRは、一般利用者にとって無くても困らないですが、徐々に影響を与えて行っている。
そして、次に来るのがスマートスピーカーだ! というトレンドが煽られて、自分としては驚きと喜びを感じました。スマホでイヤフォン、ヘッドフォンでのリスニングが主流になっていて、世の中から家で音楽を流すオーディオ装置が消えてしまっていました。このスマートスピーカーが、音楽の復権につながるんじゃないかという期待をしてしまいます。

山口:そうだね。ヘッドフォンでしか音楽聴かない若者も多くなっていると思うんだけれど、リビングルームにスピーカーが鎮座しているということは、音楽の接点は間違いなく増えるものね。ただ、心配なのは、今回も騒がれているのは、Amazon Echo、Google Home、そしてApple。LINE Cloverには頑張って欲しいし、SONYも計画しているらしいけれど、アメリカ系グローバル企業にポストスマホ時代のコンテンツプラットフォームを牛耳られるのは、日本のコンテンツ産業としては由々しき事態だよ。スマホ時代の今はゲームのルールは、AppleとGoogleに一方的に決められてしまっていて、異議申立の方法が無い。例えば、iPhoneアプリをリリースしようとして、却下されて、理由がわからず、英文メール以外問合せ方法が無く、困っている日本のスタートアップとかは惨めな思いをさせられているよ。スタートアップでスマホアプリが3ヶ月遅れるって、下手すると会社潰れかねないからね。生殺剥奪権をグローバルプラットフォーマーに握られるのは最悪の事態。スマートスピーカーは音声での言語認識技術が重要で、日本語については日系企業にアドバンテージがあるはず、NTTが世界最高の技術を持っているので、せめてそこだけでも押さえて欲しいよ。

脇田:同感です。着うた時代でも、世界同一性を求めるiTunesに比べて、レコチョクはかゆいところに手が届く細やかな対応をしてくれてました。なんでもかんでもグローバルでいいはずはないです。

山口:ジョブズは、ウォークマンとiモードから、iTunes Music StoreとiPodを考案したと言われているけれど、多分本当だと思う。日本の良さを活かしながら、グローバルサービスのプラットフォームを意識するような流れは欲しいよね。日本のスタートアップに期待しています。オープンイノベーションスタイルで大企業と組めたらチャンスあるはずなんだ。

圏外)ポストEDM広まる。海外と日本のトレンドのズレ

山口:第3位に行く前に、ワッキーが取り上げていたこの話題を

脇田:今年は「EDM」の音楽的な流行が終わったと言われました。アッパーなEDMチューンはヒットチャートに登場しなくなり、同様のエレクロニックなジャンルでは「トロピカル」だったり、レゲエ調? のダウンな曲調が増えたように思います。カルヴィン・ハリスの最新アルバムがファンクなアルバムだったことも、話題になりました。問題は、日本はこれからのジャンルなのに、海外では終わってしまった事です。
おそらく2010年ぐらいからずっと流行り続けているEDMが日本で火が付いたのはこの1、2年だったので、最近EDMにハマった日本のパリピ的なファンにとっては、あのアゲな刺激が新曲という形で味わえなくなってしまいましたね。今のエレクトロニック系のヒットソングは「まったり」してます。あとラテンが流行ったり、ついていけないですよね。アリアナのライブでも、ZEDDと共演した「Break Free」というアッパーEDMチューンが、ダウンなアレンジされていて、その時の会場の残念な感じも印象的でした。あれこそが、世界のトレンドと日本のリスナーとのズレの象徴的な場面なんでしょう。

山口:先を見るクリエイターは4年くらい前から、ポストEDMサウンドを探しているよね。「トラップ」だったり、「フューチャーベース」だったり、いろんなジャンルが注目されたけれど、「トロピカル」は本格的に盛り上がっている感じはするね。ただ、EDMって、踊らせる音楽と言うか、マネタイズポイントはフェス型イベントでしょ? そこはどうなんだうね?

脇田:むしろフェスや現場は、多様なトレンドに対応できてる気がします。メインストリームなPOPSとしてのEDMと現場が離れてきたように思います。逆にポストEDMサウンドを探してきたJ-POPクリエイターは、今から「ドEDM」やってみるとおもしろい。過去にもJ-POPでは、海外で流行りが終わったスタイルで大ブレイクを果すアーティストが多くいますから。


第3位)チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞

脇田:アメリカ、シカゴのラッパー「チャンス・ザ・ラッパー」がグラミー賞を受賞。楽曲を販売したことが無いアーティストとして、初の受賞が話題になりました。2016年5月にリリースされた自身名義の3作目となるミックステープ『Coloring Book』が、ストリーミングのみのリリース作品として初めてのグラミー賞を受賞ですね。これまでは楽曲を販
売しないとノミネートされないルールでしたが、この作品によってルール変更されました。
 彼は、ミックステープと呼ばれる無料ダウンロードサイトからスタートし、ストリーミングのみで配信するという作品発表のスタイルで数々の記録を作り時代の寵児となりました。過去には、無料ダウンロードのデータを勝手にiTunesにアップされビルボードランクインするという「事件」で名を上げました。今回のグラミーも、型破りなノミネート~受賞を達成したわけです。

山口:デジタル時代の申し子だね。同時に、ニューヨークやLAではなく、シカゴというのにも注目だ。10月に韓国の音楽ビジネスカンファレンスに呼ばれて、パネルディスカッションに出たんだけれど、その時のテーマが「都市と音楽」。ベルリンのクラブ関係者、スウェーデンの音楽業界の取り組みと共に、シカゴのHIDEHOUTという有名なライブハウスのオーナーがパネラーで、シカゴは小中学校とミュージシャンが連携して、音楽に触れるようなシステムを長く続けている。町のアイデンティとして音楽を捉えていて、「チャンスが出てきたのは偶然ではないんね?」といったら、嬉しそうに頷いていたよ。ちなみに僕は、主催者からのオーダーで恥ずかしながら「渋谷系」の説明を拙い英語でしてきました。

脇田:山口さんの活動もインターナショナルになっていますね。このチャンス・ザ・ラッパーもそうですが、多くのアーティストが、ミックステープという仕組みで無名から名を上げてブレイクしている。既存曲をリミックスしたり、収録したりする。違法行為に当てはまるケースも多いですが、そこは日本と違いルールに対してゆるいところがあるアメリカですし、ヒップホップやレゲエは、このスタイルが文化として定着していることもあり、プロモーションにもなるので黙認されているようです。
アナログ時代からのヒップホップ系の伝統は、デジタル時代とマッチして威力を発揮しています。ストリーミングが台頭したタイミングでのグラミー賞ノミネート~受賞は、時代を捕えた感はありますよね。

山口:本当だね。そして、チャンス・ザ・ラッパーのグラミー賞受賞は色んな意味でエポックメイキングだと思うんだ。アメリカのミュージシャンにとってのロールモデルがJAY-Zからチャンスに変わるというのはすごく大きくて、日本の音楽シーンにも少しずつ影響が出てくる気がする。「メイクマネー」が一番だった黒人ミュージシャン文化が、お金や名声よりも地元の友人を大事にするという価値観へ変化したのが面白いと思った。結果的には、お金もたくさん入っているんだけれどね。

脇田:ヒップホップ系の「メイクマネー」は基本変わらないでしょう。文化系ヒップホップがサードウェイブみたいな、ここ数年のトレンドとくっついて、アナログなイメージとデジタルな発信を合体させている。それが何年かかけて、遂にオーバーグラウンドで認められたというシンボリックな出来事だと思います。

山口:日本のヒップホップシーンも知っている脇田さんはクールな解釈ですね(笑)。でも、真面目な話、ライブハウス(CLUB ASIA)をルーツに持って、現場感を大切にしながら、グローバル視点を持っているのがワッキーの武器だよね。9月に出版した『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務〜答えはマネジメント現場にある!』にも、そういう脇田らしさを感じたよ。


第2位)Spotifyがブロックチェーン会社を買収。AppleはSHAZAMを傘下に。

山口:海外は完全にストリーミングサービス全盛なんだけれど、各サービスに対して、どんな印象ですか?

脇田:何の記事で見たか忘れましたが、SpotifyのCEOダニエル・エクさんの「SpotifyはIT企業ではない、ITを使った音楽企業だ」みたいな発言が印象深いです。実際にプライベートでも仕事でも使っていますが、この考え方がサービスの隅々まで浸透しているように感じます。「音楽」を重要視している思想のようなものを感じるんですよね。エンジニアと
かの方は音楽の現場に触れる事は無いかもしれないですが、会社の姿勢「音楽会社だ」という考えは一人一人に影響を与えてるんじゃないでしょうか。甘い夢を見ていられるような時代ではないですが、ギリギリのところで「音楽第一」と言いたいですよね。国内のサービスで同じように好感を持てるのはAWAです。

山口:ジョブズがミュージシャンとお友達っていうのは、まあイメージ操作で策略だったと思うけれど(笑)、ダニエルには音楽愛を僕も感じる。そのSpotifyが今年は積極的に動いた年だったね。分配の透明化を図って、ブロックチェーン会社を買収したのは機敏だった。AppleがSHAZAMを買ったのは驚いたけれど、4年前くらいにSHAZAMの役員から聞いた情報によると、その時点でSHAZAM経由で年間1億回くらいiTunesでダウンロードされていたらしいから、ユーザーへの影響力がわかっていたんだろうね。SHAZAMで知って、Apple Musicで即聴かせるという誘導は良い方法だよね。

脇田:SpotifyとAppleが音楽プラットフォームのトップを狙って、しのぎを削ってる。しかし、Appleにとって、音楽はコンテンツの一つなんだろうなと思います。ジミー・アイオヴィンやドクター・ドレーが入って始まったApple Musicですが、音楽愛よりは企業としてのApple愛が優先されている印象があります。GoogleやAmazonもそうですが、「コンテンツ」や「データ」ではなく、「音楽」を扱うサービスを期待します。

山口:まあAmazonやGoogleは、one of communication toolsとしてしか音楽を捉えないよ。だからこそ音楽家側が賢く対処しないとね。あと、Spotifyが中国の巨大なIT財閥テンセントや運営するQQmusicと提携を発表したのも驚いたな。報道によると、最初テンセントがSpotifyを買収しようとして拒否されて、提携になったらしい。おそらく、中国はQQmusicで、それ以外の国はSpotifyでという住み分け戦略なんだと思う。

脇田:ストリーミングサービスの先駆者Spotify、まだまだ注目です。


第1位)QQmusicの台頭〜中国音楽マーケットの「出現」

山口:僕にとっては、この10年くらいで最もインパクトのあったニュースです。違法サイト天国で、海賊盤すら誰も買わないと言われた中国に音楽市場が忽然と「出現」しました。2015年12月、ちょうど2年前に中国政府が国家計画で、自国の音楽産業を2020年までに3000億元(約5兆6000億円)にすると発表。日本の10倍以上だからね。大法螺かとも思ったけれど、ああいう国は政府が旗を振ると動くんだね。巨大なIT財閥テンセントがやっているQQmusicが伸びて、月額約170円の有料会員が3000万人いて増え続けている。3年後には日本の音楽市場を追い抜くという分析が一般的だね。

脇田:アジア圏に巨大なマーケットが生れるという明るいニュースですね。国内だけ見とけばいいという、日本の音楽ビジネスの発想が遂に終わりそうな話です。

山口:どの国にも自国語のポップスがあって、それが5割位のシェアを持つのが一般的。残りの5割を洋楽とK-POPとJ-POPが争う構図になるんだけれど、潜在的には日本のポップスが洋楽とK-POPを上回って全然おかしくない。日本政府も「アジアのストリーミング市場における日本のシェアを25%にする」とか目標立てて旗を振って欲しいな。5年後には、朝鮮半島からミャンマーまでの間の音楽市場が日本の5倍〜10倍になる可能性が高い。単純計算で5倍のマーケットの2割がとれたら、日本の音楽市場が二倍になるということになる。これは凄いことだよ。

脇田: 新しいアジア市場でJ-POPが洋楽やK-POPを上回るのは大変そうですね。

山口:このままの状態では全然ダメだろうね。でも潜在的にはJ-POPが一番だと思っている。理由はアジア人とは感覚的に共通する部分があり、その上で多様性と文化的な奥行きがあるから。ストリーミングサービスって、いわゆるロングテールが長い、多様な音楽が存在できるサービスだから、日本のポップスの歴史と多様性が活きるんだよ。世界的に見ても日本の歌謡曲〜J-POPの歴史は豊富で多様な過去作品もある。文化大革命で切れてしまい、政府の介入も強い中国とは大きな差があるのは間違いない。この優位性はいつまでもは続かないだろうけれど、今は日本に大きなアドバンテージがある。K−POPは特定ジャンルでは優れた作品力があるけれど、多様性には欠けるからね。あとアジアには、感傷的なメロディや「歌謡感」みたいな共通性もあるから、ストリーミングサービスがきっかけで、ミャンマーで山口百恵の曲が大人気みたいなことが起きても不思議はない。

脇田:懐メロのカタログビジネスを海外展開するわけですね。

山口:日本のレコード会社は、ともかく全カタログにメタデータを付番して、全サービスに許諾することを最優先でやるべきだよ。そして1年間位再生データを追いかけて、人気の出そうな曲を、その国の歌手にカバーしてもらうように働きかける。それだけで大きく儲かる可能性が十分にあるんだから。
 これまではレコード会社は宣伝資金力も含めた、新曲のマーケティング力がシェアを決めてきたけれど、これからは旧譜も含めたカタログ力がレーベルの優劣を決めるようになるかもしれないね。

脇田:才能と資金が集まった20世紀のJ-POPの遺産を活用して世界に出よう、と。夢があるような無いような。。たしかにストリーミングは多様な趣味趣向に対応できますので、渋谷系の時代にマニアックなレコードを掘ってコンピが作られたようなニッチな現象がJ-POPで起こることはあるのかもしれませんね。

山口:僕はアジア各国の文化的な状況は「渋谷系前夜」って感じだと睨んでる。もう少しで、洗練されて様々な音楽ジャンルを包括した都市型ポップスが各国で生まれる可能性を感じるんだよね。そうなると日本人クリエイターの活躍のチャンスが広がると思う。
 ただ、実は一つ衝撃的な事実があるんだ。中国はコンサートチケットも含めて、全てのサービスがスマホで完結できるはず。ストリーミングサービスで好きになった楽曲のアーティストのコンサート情報を調べて、チケットを決済して、コンサート会場にスムーズに入場して、ライブの感想をSNSに投稿するみたいなことが、ノーストレスで自分のスマホでできる。でも、日本人アーティストのコンサートを観たいと彼らが思っても、外国語の情報はない、決済できない、電子チケットも遅れている、会場などの情報も平準化されていない、、、、。日本はアジアの中で図抜けて、不便で遅れた国になっているという現実があるんだ。これは「このままだとそうなっちゃうよね」ではなく、まだ顕在化してないだけで、「既に今そうなっている」アジアの中で少なくとも音楽分野においては、ITが一番遅れた国になっているのが、現実なんだよ。メチャメチャ悔しい。
 そんな状況でワッキーは、中国市場でどういう勝負をしようと思う?

脇田:K-POPは、インターネット以降のグローバルな展開が可能な時代に、ヒップホップベースの世界主流の音楽スタイルでネットを駆使して、日本をはじめ国外の市場を攻略した。それは得意な特定ジャンルというより、世界の主流フォーマットで勝負したんだと思います。スウェーデンのポップスも同じ。中国のような海外市場で洋楽、K-POPと競うというのは、この主流フォーマットに挑戦し、もがいていくことなのかなと思います。
 ここ数年、いくつか中国の音楽ビジネス関係者と会ったりして、実際管理楽曲がレコーディングされ中国のレーベルからリリースされたりと、仕事が実現したこともありました。彼らが日本に求めるのは、機材やエンジニアの技術の高さやサウンドクオリティでした。音楽的には歌謡曲はダメ、ループするダンスミュージック前提。これはJ-POPとはズレがある。ではどう勝負するかというと、高い技術とクオリティを持って、世界フォーマットに乗せて、オリジナリティを発揮することでしょう。ぜひ、そういうアーティストを発信していきたいです。

山口:僕は、2006年にタイのバンコクでオーディションして16歳の美少女ボーカリストを選んで日本人と組ませてデビューさせたり(Sweet Vacation)、インドネシアのロックシンガーAiu Ratnaを日本で活動させたり、アジア市場を意識したプロデュースを先駆的に挑戦してきたつもりだけれど、今、中国、アジア市場を視野に入れてアーティストをデビューさせるのは、自信が無いのが正直なところ。成功させる方法論は見いだせるとは思うだけれど、それを達成し切るまでの資金を集める自信が無いんだ。日本の音楽業界の資金調達システムがヘタリ過ぎているからね。
 音楽業界の内側では「ともかくアジア市場開拓です。それ以外やることないでしょ?」と啓蒙活動しているけれど、「音楽プロデューサーとしての山口哲一はどんな風に何を取り組むんだ?」と1年くらい悩んできた。2017年末現在の僕の結論は、「Jポップ流の音楽クリエイター育成法をアジアに持ち込んで、日本人作家とのネットワークも作って、アジア音楽シーンを席巻する」なんだ。5年間取り組んで結果が出始めているプロ作曲家育成の山口ゼミの仕組みを中国、台湾に持ち込んで、日本人作家とコーライティングさせて、アジア中の音楽市場を攻めるという取り組みを2〜3年かけてやろうと思っている。中国企業との協業はリスクが高いけれど、人間同士の信頼関係がちゃんと作れれば中国人は頼りになるというのもあるしね。来秋に山口ゼミ上海校、台北校をつくるべく動き始めたところ。3月には既に活躍している中国、台湾のプロ作曲家を呼んで、真鶴でコーライテイングキャンプをやる予定なんだ。


総評)時代はおもしろくなってる

脇田;振り返ってみると、時代はおもしろくなってる気がしますね。すごいスピードで変化する中国とアジア市場にアンテナをはっておかないと。ダイナミックな時代の到来を期待したいです。

山口:前著『新時代ミュージックビジネス最終講義』にも書いたけれど、今は「ITサービスがわからないと音楽ビジネスができない時代」になっている。15年前までとくらべて、一番変わったことって、マネージャーやプロデューサーが「マネタイズポイント」まで考えなければいけなくなったこと。以前はCDなどパッケージを幹にした生態系がよく出来ていたから、「良い曲作って、多くの人に広める」ということだけ考えておけば、お金は自然に入ってきて、回っていったけれど、今は、ITベンチャーが、無料アプリユーザー100万人いても倒産することがあるのに似て、ちゃんとマネタイズのタイミングと方法まで自分たちで考えなければいけない。そう思わない?

脇田:同感です。一方、いくらマネタイズのノウハウを持っていても、曲のヒットとアーティストのブレイク無しでは儲からないのは昔と同じ。新時代のネットやITのノウハウもマストだし、伝統的なマネージメントや育成のノウハウ、も知るべき。両方必要。

山口:テクノロジー活用は、マネタイズとプロモーション(ユーザーとのコミュニケーション)に加えて、テクノロジーを活用して表現そのものも変わらないといけない。去年から始めたTECHSは、クレイジーなくらい大変なイベントだけれど、プログラマーとアーティストが真剣に向き合ってライブステージを作っていて、熱量はすごく高い。大変だけれど「TECHS」も続けようね。

脇田:ニューミドルマン養成講座の有志がTECHSのWEB SITE「TECHS.media」を盛り上げてくれたり、私たちの取り組みに賛同してくれる人も増えてきています。この記事に興味を持った方や、音楽の仕事でおもしろい事やろうと思ってる方は、ぜひ、講座に参加してほしいです。

山口:それからミュージシャンズハッカソンをやってきたチームで、世界的な音楽ハッカソン「Music Hack Day Tokyo 2018」を2月にやります。日本でMHDやるのは3年ぶり。プログラマー、デザイナー、ディレクターは是非、参加してください。

ニューミドルマン養成講座公式サイト

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●Music Hack Day Tokyo 2018 公式ページ