2018年1月1日月曜日

独断的音楽ビジネス予測2018:犬は吠えてもデジタルは進む、メゲずに吠えるぜ!

 全然勤勉ではないこのブログだけれど、2012年から毎年元旦に、音楽ビジネスの予測を書いてきた。毎年PVも高く、ご意見なども伺うので、励みになって続けている。
 昨年は、1年間の予測は意味が無いと書いた。世界的に音楽、エンタメビジネスのトレンドは7年くらい先までは明確で、周回遅れで走っている感じの日本は、五輪景気に甘えて、構造的な変化が遅れるけれど、方向は同じ。世界のトレンドの後を、ゆっくり追いかけていくことになると思ったからだ。この予測については1年経って、確信を深めるばかりだ。
 昨年の元旦のブログではこんなこと書いている。

 2017年の展望なのだけれど、特筆すべきことは無いというのが正直なところだ。もう流れは明確で、多少の揺れ幅はあるにしても、
1)オンデマンド型のストリーミングサービスが、音楽体験の主流になっていく。もちろん関連サービスが増えてくる。
2)   パッケージは微減しながらも健在
3)   コンサート市場は、外国人観光客を取り込むことで伸びていく
といった流れは、予測するまでもなく、進んでいくことは間違いない。

 上記の1と2はまったくそうなっている。3については補足説明が必要だ。2016年のコンサート入場料売上は10年ぶりに微減した。「2016年問題」の影響でコンサート入場料収入が微減したことだ。「2016年問題」とは2020年の東京五輪の余波でコンサートに使える大型スタジアムやホールが同時期に改修に入ってしまい、コンサート会場が不足するという問題だ。音楽業界団体は問題提起をしたものの、その声は届かなかったようだ。

 正直を言うと僕は、各社の創意工夫でなんとかやりくりし、コンサート売上が減りはしないのではないと思っていたが、甘かったようだ。スタジアム運営側は、スポーツ最優先で、「空いている時にコンサートも使っていいよ」くらいの認識なのだろう。コンサートが日本の産業文化にとって大きな価値があるということを日本社会全体に認識してもらう必要がある。音楽業界側もその努力が足らなかったように思う。2017年の国内重大ニュースの1位に上げた「チケット二次流通問題」で、業界が一団結して、ユーザー、行政、警察、司法をきちんと動かすことができた。風営法改正からナイトエンターテイメントへの関心を高める運動も進展している。大規模コンサート会場の運営者の意識変革を図ることもできるのではないか?

 さて、1年前に僕が本コラムで問題提起した2021年までやっておくべきこと3つについては、残念ながらほとんど進展はない。暗澹たる気持だけれど、確認しよう。

●データベース構築
 音楽に関するあらゆるデータ、楽曲、原盤、アーティスト、コンサートなどを一元管理および多言語化して、事業者に従量課金で使用を自由に認めれば、素晴らしい音楽関連情報サービスはたくさん競い合ってくれるだろう。音楽事情の活性化に必ずつながる。僕は10年位前から叫んでいるのだけれど進んでいない。音制連、音事協、MPAで始めた海外向けのアーティスト情報プラットフォームSync Music JapanがCiP協議会に移管されて、Artist Commonsという動きにまとめられているけれど、too much slowだ。まだ実業レベルで稼働していない。

●グローバルプラットフォーマーとの向き合い

●中国市場への本格的な取り組み
 については、まだ手付かずの状態だ。ビジネスの主戦場を海外に向けるという意識改革ができてない。

 残念ながらという前置きをつけたいけれど、僕が2015年9月に出版した新時代ミュージはックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!〜』は、2018年になった今読み直しても、全く古びてない。それは僕が著者として素晴らしかったのではなく、日本の変化が遅すぎるからだ。音楽ビジネスの現状と未来に興味のある人で未読の方は、是非、読んでみてください。「残念ながら」まだ有益な本です(笑)。
 一番の問題は2021年に先送りしたツケが全部噴出だろうことで、そろそろ底に向かって準備をしておかないと、本当に日本の音楽業界が壊滅的なことになるなと危機感を持っている。そんな愚痴ばかり言っても仕方ないので、少しは読者に有益と思える未来予測を書こうと思う。

 作秋は様々なところからセミナーのお声がけを頂いて、7つほど講演を行った。

韓国のBupyeong Music Conference
大阪電気通信大学 総合情報学部
大阪工業大学 知的財産学部
順天高校 Global Week
電機連合組合
コンテンツビジネスラボ
知的財産技能士会

 新しい出逢いがあり、刺激をいただく場で感謝している。2011年に初めて著書を刊行して以来、講演などの依頼は原則断らないという方針を続けているけれど、書籍やウエブで僕の存在を知って、呼んでくださるのはありがたい。自分が主宰するセミナーもあって、本業もある中でお受けしているので、正直時間的には厳しいこともあるけれど、エネルギーをいただいて、疲れが吹っ飛ぶ。
 その経験も踏まえて、今後の音楽ビジネスについて、年頭にポイントをまとめておきたい。キーワードはX-techだ。
 X-techとは、IT技術の活用で産業が再定義、再構築されていくことだ。背景にあるのは、以下のような時代の変化だ。

・コンピューターの処理能力の飛躍的な進化
・センサー技術進化による、軽量化、コモデティ化
・AI(人工知能)、機械学習の飛躍的向上
・SNS普及によるユーザー行動の可視化(いわゆるビッグデータ分析)

 ポイントは、本質的で不可逆的な変化であることだ。人間は、昨日まで自分がやってきたことが明日以降も続くと思いたい。それが10年、20年とやってきた仕事であれば尚更だ。「一時的な流行にすぎない」「自分には直接関係ない」ということにしたくてたまらない。日本の音楽業界、メディア業界はまさにその典型で、レコード会社の経営者は、自分の定年まで大枠を維持する「逃げ切り」作戦に終止している。これが結果として業界全体、ひいては日本の国力を下げているのだ。
 僕がエンターテック・エバンジェリストと名乗り始めたのも、社会が変わる一番重要ポイントで、そこを自分のアイデンティティにすべきと思ったからだ。
 ちょっとシニカルな言い方をさせてもらえば、日本の業界の多数派が、「見ないふり」をしているので、「きちんと未来を見据えて予見」すれば優位性を持って、先回りできるとも言える。 
 本ブログの読者には、そんな発想で、先回りできる5つの視点を共有したい


●ストリーミングサービスが音楽消費の中心になると起きる変化は?


 ビジネスとして一番大きいのは、新譜旧譜の比率の変化だろう。従来の原盤ビジネスは売上の9割が1年以内に発売された新譜だった。だから小プレーションアルバムとかベスト
盤とか、過去作を「新譜」扱いにする必要があったのだけれど、これが大きく変わるおそらく新譜は5割以下の比率に鳴るだろう。これは良い作品をつくれば長期間収益があるということであると同時に初期投資の回収に時間がかかるということでも。功罪はあるだろうけれど、対応スべき変化だ。
 併せて、ユーザー行動が可視化されて、蓄積されることに寄って、レコメンデーションの精度が上がっていく。5年くらい前から海外のサービスのテーマは「ディスカバリー」だ。ユーザーと新しいアーティスト、楽曲の幸せな出逢いを作ることに注力している。これは主にアルゴリズムだけれど、属人的なリコメンデーションがプレイリストだ。人気ラジオ番組でパーソナリティが思い入れを持って薦めることヒットしたみたいなことがストリーミングサービス内でどんどん起きている。従来に比べれば、政治力、宣伝資金力などの入る余地が少なくなり、楽曲の力が求められるようになるので、アーティストにとっては大まかには良い変化と思うべきだろう。
 そして、パッケージは音楽聴取の主力ではなくなるけれど、アーティストの証を示す「記念品」、コレクションの喜びを満たす役割を果たすようになっていく。現にアメリカでは、CDは落ち続ける中、アナログレコードの売上が伸び続け、パッケージ市場の3割を占めるようになっている。日本は今のところCDがまだまだ元気だけれど、似たような傾向に向かうことになるだろう。

●VR/AR/MRと音楽ビジネス


 エンタメ全体で言えば、VR/AR/MRの存在感は傑出している。軍事技術との関連もあって、多額の資金がつぎ込まれて開発されてきた分野だ。現状はビジネス的にはゲームとエ
ロの分野が牽引しているけれど、音楽ビジネスでの存在感は大きくなっていく。
 みんな忘れがちだけれど、Music Videoというのは80年代のMTVの隆盛とともに広がったフォーマットだ。表現はメディア環境で変化していく。ハードの進化や普及、プラットフォームが整備されていく中で、MVの進化系、インタラクティブ性のある作品を楽曲に合わせて制作する流れは増えてくるだろう。
 Bjorkが2016年にVR型のMVをつくって日本科学未来館で展示した時の名言が忘れられない。「テクノロジーって21世紀の新しい楽器だと思っているの。」VR演出自体は、彼女の楽曲力を大きく拡張するところまではできてなかったと思うけれど、パイオニアが切り拓いた道があることで、表現は進化していく。
 ライブビューイング的な活用もどんどん増えるだろう。東京五輪に向けでスポーツのリアルな中継に皆さんご執心だけれど、コンサートへの応用も間違いなく広がっていく。収益性がポイントになるけれど、通信規格が5Gになり、通信会社がこの企画を活かしたコンテンツを積極的に求めるという追い風もある。
 既にリアルとバーチャルは対立概念ではない。東京ドームの2階席でプロジェクターに映し出されたパフォーマンスを観るのがリアルで、目の前に立体的に再現されているアーティストを他の観客と一緒に見て盛り上がる体験がバーチャルだという区別は、おそらく意味がなくなっていく。ユーザー体験としてどちらが楽しいかがポイントになる。
 いずれにしても、音楽家や音楽プロデューサーにとって、VR/AR/MRは必修科目と捉えるべきだ。


●アジア市場とインバウンド


 違法ダウンロードサイト天国で海賊版も作られなくなったと言われていた中国に音楽市場が「出現」したのは驚異だ。正直言って、僕が現役の音楽プロデューサーの間にあるのかどうかと思っていた。2015年12月の国家計画の発表から2年でQQ Musicの月間アクティブユーザ数は約1億8,500万人。月額10元(170円)の有料会員2,500万人などという数字が聞こえてくる。信頼できる知人たちの意見を総合して考えると、控えめに言っても3年以内に日本の3000億円を中国は抜くだろう。僕のイメージでは、5年後位に、朝鮮半島からミャンマーまでの東アジアの音楽市場は日本の5倍位になっていると思う。そして成長余地はまだある。この場合のポイントは、この地域ではJポップ、アニソンに競争力があることだ。
 その国も自国語のドメスティックポップスが市場の5割は占めるものだ。残り5割あるとして、そこを洋楽とJポップとKポップが争う図式になる。アニソン含めたJポップが一番人気になる潜在的な力はあるはずなのだが、今のままだとKポップの後塵を拝する可能性は高い。ストリーミングサービスはいわゆるロングテールが長く、多様性と蓄積のある日本に本来はアドバンテージがある。僕らがよく言う「歌謡曲な大衆性」は東アジアでは共通する感覚だ。個人的にはアジア各国は「渋谷系前夜」みたいな状況だと思う。様々なジャンルの音楽を取り込んだJポップライクなポップスが広く受けいられる土壌はできている。経産省などが旗を振って、アジアのストリーミングサービスにおけるJポップシェアを2割にするという目標を立てたいところだ。やり方は簡単だ。メタデータをつけて、過去の全カタログをアジアのストリーミングサービスに許諾すればよい。半年から1年様子を見て、反応のある楽曲をその国の影響力のあるアーティストにカバーを促す。それだけでヒット曲が生まれる可能性があるのだから挑戦するべきだ。5年後にベトナムで松田聖子の楽曲が大人気みたいなことは全然あり得ることだと僕は思っている。
 ストリーミングサービスが生まれたことで、音楽ビジネスのマネタイズポイントを多様化できることも大きなメリットだ。これまで中国は、いわば出稼ぎ的に、現地で入場料を稼いで、グッズを売って、以上という商売になっていた。ストリーミングサービスがあることでライブの前後で楽曲が流れで、それも売上になり、越境ECふくめた幅広いチャネルでのマーチャンダイジングが期待できる。そして、本当に好きになってくれたら、日本まで「本場のコンサート」を観に来てくれるかもしれない。日本のインバウンドのこれからの課題は、リピーターと滞在日数の延長のはずだけれど、そこに音楽業界が果たす役割は大きい。
 単純計算だけれど、5倍のマーケットで2割取れたら、日本の音楽市場は二倍になるということだ。このチャンスを逃してはいけない。

●ポストスマホのコンテンツプラットフォームは?


 現在、世界中でコンテンツプラットフォームの主戦場がスマートフォンであることに異
論がある人はいないだろう。これから発展途上国を含めて、まだまだスマホ普及率は伸びるから、普及率が100%に近づいていくことの社会的インパクトも大きいと思うけれど、未来を見据える人たちの興味は、既にポストスマホのプラットフォームだ。ひと頃はウェアラブルデバイスだと目されていただけれど、グーグルグラスのようなメガネ型も、アップルウォッチのような腕時計型も広まる様子は見えていない。2018年1月現在、ポストスマホの本命はスマートスピーカーだ。
 2017年は各社の商品が出始め、お手並み拝見という状況になっている。音楽業界にとっては、リビングルームにある「世の中との窓口」がスピーカーであるというのは大きなチャンスだ。音楽が流れることが自然で、接点が増えるはずだから。
 個人的にはこのままポストスマホがスマートスピーカーになるかどうはか微妙なところだと思っている。IoTということでいえば、鏡がついているクローゼットがスマート化して、洗濯機や冷蔵庫ともつながり、買うべき服やレシピもレコメンドされる。スマートクローゼットも例えば有力だと思ったりする。次のフェーズで来る在宅型ロボットの普及が本命ということになるかもしれない。
 現状では。音声認識+クラウド上のAIというのがポストスマホの第一候補になったということを理解して、推移を見守っていきたい。一番大事なことは、スマホのときのように、外資系グロバール企業にこのプラットフォームを完全に牛耳られて、日本のコンテンツホルダーがゲームのルール設定に参加できないような事態にならないことだ。そういう意味でも、LINEやSONYも頑張って欲しい。日本語音声認識はNTTが世界一の技術を持っているはずだ。しっかり戦略を持って対峙したい。

●ブロックチェーンの衝撃。音楽への応用は?


 分散型台帳技術、ブロックチェーンは、インターネットが広まった時に勝るとも劣らない大きな変化を社会にもたらすそうなので、音楽だけでどうこういう話ではない。契約のあり方、取引における信用担保の構造を根本からひっくり返すような技術だ。あまりにも大きな変化すぎて予測が難しい。20年後は、今のブロックチェーン技術の思想をベースにした世界になっていることは、ほぼ間違いないのだけれど、それまでの過程は予測不能だ。
 音楽に関してだけ言えば、著作権、原盤権の徴収分配の仕組みが今の国ごとの集中管理というやり方から変わることは間違いないだろう。10年位はかかると思う。
 僕が個人的に一番関心があるのは、リミックス、二次創作への応用だ。初めてブロックチェーンの存在を知ったときから、「クリエイティブ・コモンズ」の考えかたがビジネスに持ち込める機会がやっときたのだと感じた。一般的になっているようで、リミックス、サンプリング、二次創作には、きちんとしたルールはシステムが無く、個別の相対でやるしかないのが現状だ。原則OKのオプトアウト型のルールが広まれば、新しい表現と市場が大きく伸びることが期待できる。今年は本格的にこの可能性を探る年にしたいと思う。

 ニューミドルマンも3年経って、よいネットワークになっている実感がある。今年からコミュニティ化を図りたい。ニューミドルマン養成講座と並行してオンライン+OFF会のサロンもやっていこうと思うので、興味のある人は是非、参加して欲しい。このブログを読んで面白いと感じる人には意味のある場になっていると思う。
 音楽ビジネスに興味のある人は、まずは2月の「超実践アーティストマネージメント篇」の受講からどうぞ!

 元旦から長くなってしまったので、この辺で終わりにしたい。
 次回は作秋、高校生に話すために考えた「2021年以降のZ世代日本人のサバイバル〜オトナに騙されるな」をテーマに書こうと思います。お楽しみに。

●ニューミドルマンラボ公式サイト

●独断的音楽ビジネス予測〜2012年は目覚ましい変化なし。大変革への準備の年〜
●独断的音楽ビジネス予測2013 〜音楽とITの不幸な歴史が終わり、構造変化が始まる年に〜
●独断的音楽ビジネス予測2014〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜
●独断的音楽ビジネス予測2015〜シフトチェンジへ待ったなし〜
●独断的音楽ビジネス予測2016〜周回遅れをショートカットして世界のトップに〜 
独断的音楽ビジネス予測2017〜もう流れは決まった。大変革の2021年に備えよう〜 

0 件のコメント: