2017年8月12日土曜日

書籍の著者になって良かったこと

 音楽の仕事を始めてもう30年近くなるけれど、自分が書籍を出版するようになんて思ってもいなかった。インターネット上に本名と写真を晒して、日々発言するなんて15年前頃までは絶対に有り得なかった。実際mixi日記もブログもやってなかったし、自分の事務所のアーティストのメイキングのビデオや写真にも写り込まないように気をつけていた。裏方の美学みたいなものもあったし、単純に自意識過剰で恥ずかしがり屋なので、避けていた。

 だから、2010年1月からTwitterを始めたことは、人生の最大の事件だった。多分、1月の2日か3日だったと思う。世田谷線に乗っていて「やる!」と決意した時の車窓の風景を何故か今でも覚えている。

 そこからは自分に対してマネージメント、プロデュースの能力をフルに発揮したので、書籍を出すまでの流れ必然的だった。ブランディングや風評リスク、本業へのマイナスなども気にしながら、活動領域を広げていったつもりだ。とは言え、書籍を出すのは一つの大きな節目だった。ふくりゅう君との共著にしたのには、初めての経験で彼に頼りたい気持と、同時に直近のプロジェクトで大きな迷惑を掛けたので、彼の初著作の機会を作ることで罪滅ぼししたいという気持ちもあった。

 さて、今日の本題はここから先のこと。

 僕の最初の著作『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』は2011年の3月刊行予定が延期になった。最終的には震災がダメ押しだったんだけれど、その前から出版社の雲行きが少し怪しくなって、「より良い内容で良い形で出すために」という理由で延期が決まった。
その話を僕に伝えてくれる時の編集者の態度を見て気づいた。「これ、俺が普段やっている役回りの仕事だ」と。「事実は正確に伝えなければいけない。中途半端に誤魔化すことはしない。でも相手が少しでも前向きに捉えられるように、ポジティブな側面をきちんと伝える」なかなか難しい役割なのだ。編集者の僕の気持に気遣う態度に感謝した。
 そして、一番驚きだったのは、自分がとても不安になっていることだった。
 逆の立場だったら「よりベターな方法を選んでいるだし、1〜2ヶ月遅れることなんて、大したことじゃない」と思うのに、著者の立場になると「もう出版できないのではないか?」と不安になるし、自分が否定されたような気分に落ち込んでいく。

 痛感したのは、アーティストってこんな風にどうしようもなく不安なんだなということ。アーティストマネージメントの仕事を長年やって、よくよくわかっていたつもりだったけれど、これまで関わったアーティストに対して「ごめん、。俺、わかってなかった」と謝りたい気持だった。もちろん、言っても副業な僕の著作と、全エネルギーを注ぐアーティストでは不安の程度も違う。今後はもっともっと気遣って優しくしなくちゃと思った。同時に確信したのは「やっぱり、アーティストの立場に居てスタッフに感謝の心を持てない奴は人間のクズだな」ということ。自分の育て方が悪かったという悔恨を伴った経験は、セミナーなどで本格的に人材育成に取り組むようになって糧となっていると思う。その時気遣ってくれた担当編集者は古い付き合いというのもあったけれど、心の底から感謝した。その気持は一生忘れないし、彼のためならできることはなんでもしたいと今でも思っている。
 「最初に井戸を掘ってくれた人のことを忘れない」ができるかどうかで、その後のその人の人生は変わっていく。そんな例を何度も見てきた。

 著者というアーティストとニアリーの立場を経験したことで、音楽プロデューサー、アーティストマネージメントとしての自分の仕事に奥行きが出たらいいなと思う。

 こんなことを思い出しているのは、同業の後輩、ワッキーこと脇田敬の最初の著作『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務〜答えはマネジメント現場にある!』の監修をしているからだ。発売が決まって、書籍の情報がAMAZONに載り、どうしに文章の校正と図表や後書きなど細かなことを詰める作業をしている時には、いろんな不安がよぎっているだろう。打合せをしている脇田の顔を見て、6年前の気持を思い出した。彼も著者になるという経験を糧にして音楽プロデューサーとしても成長してくれると思う。
アーティストマネージメントの実務を微に入り細に入りその意味と具体を説明しているこの本は、業界で仕事をしている人なら誰でも知っている暗黙知を言語化するという作業で、拙著ではクリエイター向けに音楽業界の成り立ちを伝えた『プロ直伝!職業作曲家への道』と似ているところがある。全てが可視化されて、情報が隠蔽できない時代に、長く続いている音楽業界の慣習を、そもそもの意味から紐解いて言語化して公開するのは重要な作業だ。若い人が全てを盲目的に業界慣習に従う必要は全く無いけれど、知らずに損をしない方が良い。音楽業界の良き部分を語り継ぐという意義もある。もちろん時代遅れになった慣習は変えていかなければならないけれど、そのためにしっかり知っておいたほうが良い。
 自立心を持ったDIYミュージシャンと音楽業界で働きたい人、そして音楽業界とこれから仕事をしようとしている人にも有益な本なので、是非、読んでみて欲しい。

 ちなみに、この本はNEW MIDDLEMAN BOOKSシリーズの第二弾で、脇田曰く「ミュージックビジネス最終講義が設計図だとすれば、本書は現場マニュアルだ」とのこと。お陰様で重版されている『新時代ミュージはックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!〜』も改めてチェックして欲しい。もう約2年の出版になるけれど、ここに書かれている課題と分析は、(残念ながら)2017年現在もほぼそのまま有効な内容だ。

 新しい世代や異業種と連携して、日本の音楽シーンを活性化して、音楽ビジネスを広げていくことは、僕のライフワークなので、もちろん続けていくつもりだ。10月1日(日)は、デジタルコンテンツ白書の音楽部分のエキストラ解説と『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』の出版記念のトークイベントを予定している。ニューミドルマンラボの活動の一環として、ラボメンバーやゲストもお招きするつもりだ。詳細発表はもう少し先になるけれど、無料イベントになる予定なので、是非、足を運んで僕らに会いに来て欲しい。

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