2017年4月28日金曜日

「ニューミドルマン・ラボ」で僕が伝えたいこと、出逢いたい人〜2021年に向けてvol.1

 未来は不確定と言うけれど、今から5年先くらいまで、音楽ビジネスがどうなるかというのは、概ね確定している。わかっている人には自明のことで、あまり語られていないのは、わかっている人の中に、音楽愛が強い人が少ないからだと僕は思っている。
 僕は大学をほとんど行かずに、自分で音楽事務所をつくって、ずーーっと音楽に携わる仕事をしてきている。当たり前のように僕の人生と音楽は不可分な存在だ。業界団体の理事をやらせていただいた経験もあり、日本の音楽ビジネスに対する危機感の強さは誰にも負けないつもりだ。ただ、簡単に変われない理由もわかっているので、業界外の人たちと連携して改革しようというのが2011年頃からの僕の活動だ。

 「日本の音楽ビジネス生態系を再構築して、魅力的なものする」

 僕のすべての活動はそこに集約されている。スタートアップを支援するアワード(START ME UPAWARDS)も、作曲家を育成するセミナー(山口ゼミ/CWF)も、大企業の新規事業やベンチャーへのアドバイザー業も、エンターテックのイベントやメディアの企画(TECHS)も、SXSWでのJAPAN HOUSEも、全てそのベクトルでやっている。その中心にあるのが、「ニューミドルマン・ラボ」だ。


ニューミドルマン・ラボの目的は、

時代の変化に合った(できれば先取りした)、
次世代の音楽ビジネス(という領域自体を疑いつつ)を
再構築する方法を考え、実践していくこと。

 冒頭に書いた、自明となっている近未来については、2015年秋に出した『新時代ミュージックビジネス最終講義〜新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる!』(リットーミュージック刊)で書ききっているので、興味がある人は読んでみて欲
しい。そして、そこから1年半経っても、事態は緩やかに進んでいるだけで、想定外のことは何もない。「ニューミドルマン」を最初に提唱した田坂広志さんは「未来は予測はできないが予見はできる」とおしゃっている。ストリーミングサービスでどの会社が勝つかは予測できないけれど、音楽消費の主流がオンデマンド型ストリーミングサービスになること、そのプラットフォームはグローバルサービスであることは確定的、というのが予見で、概ね外れることは無いグローバルな流れだ。


 ここに日本の特殊性が加わる。2020年までは変化せず、2021年に大変動が起きる、という予見も、まあよほどの天変地異でも無い限り外れないと思う。このことは、元旦のブログ「独断的音楽ビジネス予測2017で詳しく書いたので、興味のある人はそちらを読んでほしいけれど、大まかに言うと、有効性を失いつつある既存の仕組みが、五輪景気で温存されて、その分の反動が2021年に起きるということだ。これは日本の多くの産業に当てはまることだけれど、特にエンタメビジネスには顕著に起きるだろう。
 インターネット以降に社会と文化と産業に起きている変化は、本質的で不可逆的なものだ、それを認めたくない、見たくない人と、ポジティブに対応する人で全く違う未来が見えているのが今の時代だ。

 その変化を音楽ビジネス関連でまとめれば、

・クラウド化=アクセス権型ビジネスの伸張(複製権ベースの著作権法の限界)
SNSのインフラ化=ユーザー間コミュニケーションの可視化
・市場のグローバル化=国内型モデルの限界
IoT化=人工知能、ロボティクスがコミュニケーションの中心になる

 というようなことだ。


 そして、この変化に伴いビジネスルールは全面的な改訂が必要だけど、音楽そのものの価値は、むしろ高まると僕は信じている。コミュニケーションを促進し、時に強い熱狂を、時に人生を変えるほどの内省を呼び、多くの人と言葉やグルーブや空気を共有する体験は、SNSなデジタル時代にその価値が上がる。
但、もちろん音楽の中身も変容する。電化(トランジスタ)によってロックミュージックが生まれたように、テクノロジーの進化が表現にも大きな影響を与える。例えば、今はVRARと呼ばれている分野の一部は近い将来、音楽と融合すると僕は睨んでいる。「音楽」と呼ばれる事象が拡大していくのだ。

 ここまで読んで共感してくれた人とは、確認したいことが一つある。何が目標で、誰が仮想敵かということだ。
 僕らの目標は、21世紀の日本人が持つ優位性を理解して、日本の文化に根付いたクリエイティビティを活かして、グローバル化した市場で勝つことだ。今、きちんとやらないと、10年後日本の音楽そのものが保護対象の伝統工芸品になってしまう。
 グローバル市場で「人気者」になること(これはコンテンツ輸出とニアイコールだ)と、インバウンド促進で国に貢献することが、今、日本で音楽ビジネスに携わる者が目指すべきことだ。

 仮想敵としてベンチマークすべきは、旧既得権の日本企業ではなく、アマゾン、グーグル、アップルなどの音楽をツールとしてプラットフォームを広げているグローバル企業だ。そしてこの仮想敵への対抗には世界中の音楽家、様々なクリエイター、音楽ファン、
起業家などと共闘が可能だ。
 ただ、あくまで「仮想」敵であって、退治しようとするのではなく、自覚的に対峙するべき対象だ。「敵かもしれない」くらいの警戒心が必要だというのが僕の本意だ。

 ニューミドルンラボでは、既に自明である現状分析、近未来の予見を総論的に共有した上で、各論を議論していきたい。
 そして、各人がやるべきことを見つけて、連携していきたい。2021年まで時間はある、とも言えるし、時間は無いとも思う。
  3年前に始めた「ニューミドルン・ラボ」養成講座第6512日から始める。この講座のモットーは、

・インタラクティブ (一方的に受け取って何かを教わるのでは無く、一緒に考えていく)
・クリエイティブ (ビジネス構造の変化を本質的に見抜いて、新しい方法を考える)
・プラクティカル (机上の空論では無く、行動していく)

 の3つだ。

 今回は、世界的DJの沖野修也にお金の稼ぎ方を訊き、ベストセラー「ヒットの崩壊」の柴那典と崩壊後のことを話し合い、カワイイカルチャー旗手のASOBISYSTEM中川悠介とクールジャパンの真相をえぐり、8年ぶりの宇多田ヒカルの作品を大ヒットさせた梶望に、2017年のプロモーションの秘訣を教わり、All Digital Musicのジェイコウガミに世界の音楽サービズの現状を教わり、CAMPFIREを支える二人の女性(矢島由佳子+鳴田麻未)と音楽とクラウドファンドの未来を考えるという内容だ。もちろんこんな講座、どこにもない。 
 ファーストコールのゲスト講師から全員OKをもらえて、ものすごく感謝しているし、僕自身、とても楽しみにしている。
 是非、この場に参加して欲しい。新たな出逢いを楽しみに待っている。