2015年9月12日土曜日

クリエイターが主役の時代がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!

 初の試みである「クリエイターズキャンプ真鶴」まであと2週間となった。「コーライティングワークショップ」用の資料をまとめるために4月に出版した『コーライティングの教科書』を読み返していたら、自分のコラムが我ながらよく書けているなと思って、ブログに載せたくなった。
ということで、P40のコラムの再掲です。

 孤独からの解法


コーライティングのメリットはたくさんある。得意なスキルを活かせる、効率よくクオリティの高いデモがつくれる、他人と一緒に作ることで化学反応が期待できる、どれも真実だけれど、僕が一番、意義を感じるのは、「孤独からの解放」だ。
 DTMが広まったことには功罪両面あるけれど、最大のマイナスは、音楽の作業が孤独になったことでは無いか?本来、音楽というのは、人と一緒に創るもので、そこに喜びがある。
 コーライティングは、バンドをやるように、楽しく、他人とコミュニケーションしながら、音楽をつくる作業だ。パソコンの世界の中に閉じ込められてしまった、音楽をつくる喜びを大げさに言うと「人間性の復権」だと思っている。

 プロ作曲家育成のセミナー「山口ゼミ」を始める時に、伊藤涼と僕が、テーマとして掲げたのは、「コンペに勝つ」と「コーライティングを日本に広める」の二つだった。
 音楽プロデューサーとしての僕は、大型コンペという方法論はあまり好きでは無い。本気で良い作品をつくろうと思うなら、適したクリエイターと膝詰めをして話し合い、何度も何度もやり直しながら「正解」を探していくというやり方が、クリエイティブとしては正しいと思うし、少なくとも僕の肌にはあっている。ただ、現実には、大きなプロジェクトになればなるほど、膨大な数のデモを集めて、そこから選ぶとやり方になってしまっている。プロの作曲家はこれに勝たなければやっていけない。  
 また、見方を変えれば、大型コンペは、駆け出しの新人が、キャリアのある作曲家と同じ土俵で戦うことができるチャンスだと捉えることもできる。大型コンペで勝つのは宝くじに当たるくらいの確率なのは事実だから、コンスタントの高いクオリティのデモをつくり続ける状態をつくらないとプロの作曲家としてはやっていけない。
 そんなコンペに対抗する方法としてもコーライティングは有効だ。選ぶ側は効率を良くしたいので、そのままアレンジも使えるようなクオリティの高いデモをたくさん集めてふるいにかけようとしている。「敵」がそうくるなら、対策として、こちらも効率的にたくさんのデモを作り続けなければ戦えない。仲間たちと創る喜びを感じながら、高いクオリティのデモを作り続けるというのが、今の時代にプロの作曲家が生き抜く知恵として必須だと思う。
 

 日本の作曲家が秘めているポテンシャル


もう少し俯瞰して見よう。
 これから世界の一流国であり続けるためには、日本に蓄積されたソフト力を活用することが必須だ。日本の未来が明るいかどうかは、クリエイターが活躍できるかどうかにかかっていると言っても過言ではない。
 「クールジャパン」の掛け声のもと、コンテンツ輸出に取り組みたいところだけれど、残念ながら日本の音楽プロデューサーでグローバルなヒット作品をつくるノウハウを持っている人はほとんど居ない。映画やドラマも同じだと思うけれど、ビジネスモデルやメディア構造が、閉じた国内市場向けになっていたから、挑戦する機会も少なかった。音楽プロデューサーとして、これから挑戦しようと僕自身は思っているけれど、簡単では無い。
 それに比べて、日本の作曲家やサウンドプロデューサーのクリエイティビティは、世界で成功するポテンシャルを秘めている。「ヒロイズムは音楽界の野茂英雄になる」と僕が予言しているのは、日本の作曲家の置かれている状況が、20年前のプロ野球選手と似ていると思っているからだ。野茂投手が1995年に渡米するまで、日本の野球選手が大リーグで活躍できると思っている人はごく少数だった。以前に村上雅則という変則型の左腕投手が通用したのは特殊例と思われていたし、他には、沢村投手のドロップが日米野球で大リーガをきりきり舞いさせたという、古い伝承のような話しか無かった。
 野茂英雄が、トルネード投法でアメリカを席巻したことで流れは変わった。イチローが、松井秀喜が大活躍し、日本で一流の選手は、大リークでも第一線で活躍できることがわかった。日本の野球の底辺の広さと歴史の長さ。ガラパゴス的と思われた日本型の野球は、やり方は違っても、レベル的には大リーグに遜色無いことを大リーグ球団も知って、ダルビッシュや田中将大は、若くして高額の契約金を得て太平洋を渡り、チームの主軸として活躍している。
 日本の音楽家もすごく似た状況にある。坂本九『上を向いて歩こう』が「SUKIYAKI」という曲名でビルボード一位になったのは1963年だ。沢村伝説のように遠くて、今のJポップと結びつけては考えづらい。けれど、日本独自の進化を遂げたJポップは、日本人だけに通用するローカルな手法に見えて、実は世界水準を超えている。勇気を持って取り組めば、日本のクリエイターが活躍する可能性は大きい。
 もう工業製品を安く作って世界で勝つことができなくなった日本は、日本人クリエイターの能力を輸出していくことに尽力するべきだ。クリエイターを活用することに日本の未来がかかっていると僕は本気で思っている。

 そんな思いで、2015年から「クリエイターズキャンプ」という企画を始める。音楽を中心にクリエイターが海外からも集まって、日本で出逢い、作品を創るというクリエイター
が主役のフェスティバルにしたい。協力してくれる自治体も出てきた。初年度は、音楽家が必ずチームに加わっているハッカソン「ミュージシャンズハッカソン」と、「コーライティングキャンプ」と、作曲家志望者向けの「作曲セミナー&ワークショップ」の3本立てで始める。将来的にはシンガー、ダンサーはもちろんのこと、映像作家、写真家、デザイナーとオールジャンルのクリエイターが参加できるように広げていきたい。
 プログラマーと音楽家が2日間で新たなサービスやプロダクトをつくる「ミュージシャンズハッカソン」は2014年にやったけれど、素晴らしかった。一定の期間の中で、出会った人たちが新しいアイデアを形にする時に出てくるエネルギーとその時の「場の力」は、魅力的だ。

 コーライティングは、コンピューターに支配されたようにも見える作曲の「人間性の復権」であると同時に、新たなエネルギーを生む魔法のような方法だ。バンドの演奏が化学反応的に上手く行った時に「バンド・マジック」という言葉があるけれど、「コーライティング・マジック」も、間違いなく存在する。
 世界で通用するJポップを作るために、コーライティングを広めていきたい日本人クリエイターの能力をグローバルに向けて最大限活用することが、プロデューサー山口哲一のライフワークになるはずだ。

ということで、9月26日から28日は海外作家も含むプロ作曲家51人による
コーライティングセッションが真鶴町で行われる。27日に一般向けに行なうコーライティングワークショップは間もなく締切だ。28日の最終日にコーライティングの試聴会〜ミュージシャンズハッカソン発表会〜ネットワーキングパーティに参加できるオーディエンス券は絶賛発売中だ。興味のある人は、品川から東海道線で1時間半の神奈川県真鶴町まで来て欲しい。大いなる刺激を受けることは僕が保証するよ。

●最先端の作曲法コーライティングを学ぶ CO-WRITING WORKSHOP 日帰りキャンプ

●CREATORS CAMP MANAZURU PRODUCT LAUNCH PARTY