2015年1月5日月曜日

作曲家育成セミナー「山口ゼミ」を続けている理由

 「山口ゼミ」を始めたのは、20131月だったから、3年目が始まろうとしている。きっかけは、「作曲家向けのセミナーをやってみませんか?」という後輩社長からの提案だった。どうせやるならと自分なりに掘り下げて考えたプロジェクトだ。
 アーティストマネージメントの使命は、新たな才能を世に出すことだと思って長年仕事をしてきたから、新人クリエイターの育成には、ある程度の自信はあった。音楽の才能というのは、泉や温泉を掘るようなところがあって、デリケートで難しいけれど、経験値はそれなりに持っているつもりだった。

 「山口ゼミ」とネーミングしたのは、責任の所在を明確にしたかったから。同じ年で親友の柳延人君が、ヘアーメイクアーティストとしてバリバリに活躍しながら、後進育成のためにやっているセミナーが「柳塾」だったのに啓発されたのもある。
 2人とも50歳になって、見た目も精神も変わらずにビックリだけど、50代に突入したら「50/50」というタイトルで、美容と音楽をメインとしたカルチャーTV番組をやろうと話してた。今年は具体的に考えたいな。

 さて、「山口ゼミ」では、マネージメントで培ってきたノウハウをセミナー形式でやるためにはどうすればよいかを考えた。専門学校の先生は、僕から見ると「元プロ」の人がほとんどだったから、自分がやるなら、今、ヒット曲を作っているサウンドプロデューサーの息吹を生で感じられるようにしようと思った。そもそも現役の音楽家じゃ無いと、僕に興味がわかない。ホストが楽しんでないトークイベントほどイケてないものは無い。そう、「山口ゼミ」は、授業というよりは、トークショーに近いのだと思う。



 世の中の音楽学校がどういうシステムかは詳しくは知らないけれど、今の状態からスキルを向上させる方法を教えているのだと思う。ほとんどの場合は、それだとプロに届くところまで育たない。平均点を上げることはできるのだろうけれど、プロのA&Rやプロデューサーが、新人作曲家に求めることは、「バランスが悪くても何か突出した才能が感じられること」だ。スキルを少しずつ向上させていっても、目的地に届くことは少ない。

 僕が伝えられることは、プロの第一線で行われていることを実感させてあげることだ、このレベルをクリアするのが前提だよ、と水準を肌で感じることが一番重要だ。そこを超える方法は、自分で創意工夫するしかない。もちろん気づきのチャンスを増やすためのアドバイスはするけれど、叱咤激励以外に他人ができることは限られている。

島野聡さんの説明は秀逸
 そもそも、こんな事をやろうと思ったのは、音楽業界の新人クリエイター育成のシステムが弱まっていると感じているからだ。以前は、「メジャーデビュー」が、次期のサウンドプロデューサーのインキュベーションの場になっていた。今、活躍している作曲家、サウンドプロデューサーは、僕が知る限り、ほぼ例外なく、アーティストとしてメジャーデビュー経験者だ。だから、若い音楽家で、「将来はアレンジャーになりたいんです」という相談に対して、以前は、「歌えるメンバー見つけて、グループ組んでデビューしなよ」と薦めていた。


 大御所プロデューサーの渡辺善太郎さんが「詩人の血」というグループでEPIC/SONYからデビューしたことを知っている人は、ほとんどいないだろう。大先生になっている菅野よう子さんも「てつ100%」というグループのキーボーディストだった時のライブを観ている。最近は大活躍の蔦谷好位置君が所属していた「CANNABIS」というバンドは、マネージャーもメーカーディレクターも仲間がやっていたので、応援していた。

伊藤涼さんとヒロイズムさん
 これらのグループは商業的には成功しなかったけれど、その時の経験とネットワークが、一流のサウンドプロデューサー、作曲家とさせているのだ。

 以前の音楽業界は、メジャー契約というのは3年間が普通だった。アルバム3枚位はメジャークオリティの作品を創る環境が与えられた。第一線のエンジニアやアレンジャーなどと一緒に作品をつくることで成長する機会があった。当時はプロフェッショナル向けのスタジオで作業するのが普通だったらレコーディングに関するノウハウも自然と身につけられた。大きなスタジオは、いくつものセッションが行われていたから、スタジオのロビーは音楽家のサロンで、先輩ミュージシャンと交流する場にもなっていた。

 業界が申し合わせをしていた訳では無く、偶然だったけれど、メジャーデビューをしてからの数年間がプロの作曲家のインキュベーションの機会となっていたんだ。
 ラジオに出て自分の作品について語ったり、音楽雑誌のインタビューを受けたり、レコード会社のスタッフに意味わからず「売れる曲つくれ」と言われたりする経験も、プロデュース側に回ってみると貴重な経験となる。
多胡邦夫さんとの打上げ後のスナップ

 近年はそういう場は、ほとんどなくなってしまっている。プロフェッショナルスタジオで作業する機会も少ないし、シングルを数枚出して売れなければみたいなスパンが多くて、新米音楽家が経験を積む機会としては、あまりに貧しい。


「このままだと新人作曲家はボカロPだけになってしまう!」という危機感を持った。ニコ動は面白い場だと思うけれど、音楽シーンの過去の流れとは隔絶していて、Jポップが培ってきたクオリティやノウハウが受け継がれていない。

 僕が「山口ゼミ」でやろうとしているのは、そんなインキュベーションの代替機能だ。一流のサウンドプロデューサーに来てもらって、僕が横からチャチャ入れながら、本音で話をしてもらう。本当に一線で作品を創っている人の息吹を感じるのが一番意味があると知っているからだ。たくさんの人が貴重なお話しをしてくれて、その友情には本当に感謝している。公式サイトにコメントもくれているので、興味のある人は読んでみて欲しい。

 浅田祐介さん、TAKU☆TAKAHASHIさん、Ken Araiさん、今井大介さん、nishi-kenさんと、どれも素敵なコメントだ。みなさん、新人クリエイターが育つ場がなくなっているという危機感は共有してくれているからなのだろうけれど、めちゃくちゃ協力的でありがたい。

 いつの間にか副塾長と名乗るようになってくれた伊藤涼さんの「コンペに勝つデモテープの作り方」という講義は秀逸だ。普段は、黒い幕の向こうに隠された大型コンペというのが、どういう構造、価値観で行われているかを体感できる「疑似コンペ公開添削」は、毎回、受講生の緊張感がよい感じだ。伊藤涼の辛辣なコメントを「伊藤斬り」と名付けたのは僕だけれど、斬られても、斬られても立ち向かってくる奴は、確実に力をつけてくる。


 「山口ゼミ」の講義と並行しながら、新人作曲家のための本も2冊監修して出した。『プロ直伝!職業作曲家への道』は、第1期の講義をやりながら並行して書いていった。昨年出した『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていることは、自宅作業が主になった作曲およびレコーディングについて、一流作曲家が何をやっているかをわかりやすくまとめた本だ。受講生との肌感覚で必要とされていることをまとめたつもりだ。

 「山口ゼミ」修了生でプロレベルに達したと僕らが判断した人だけで構成する山口ゼミのOBOG会「Co-Writing Farm」は、39人の大所帯になった。昨年末には、NEWSMISIAで採用されるという朗報も届いた。
素晴らしい環境のキティ伊豆スタジオ
 最近のコンペは商品レベルのデモクオリティが求められるから、コーライティング(共作)というデモの作り方も有効だ。自分の得意な部分を活かしながらのコーライティングがそここで行われている。

 育成にはある程度、自信があったけれど、嬉しい誤算だったのは、受講した人達がコミュニティをつくって、その場にエネルギーが生まれていることだ。作曲がPCに向かった孤独な作業になっている時代だから、同じ仲間を持った仲間が居ることは貴重なのだろう。年齢や立場を超えて、濃密なコミュニケーションが行われているようだ。

試聴会後の記念撮影
 老舗リゾートスタジオであるキティ伊豆スタジオに協力してもらって、コーライティングキャンプも二度やってみた。一泊二日で1曲のデモを0から完成させるのは、ハッカソンみたいで面白いし、スキルを上げる機会にもなるから、定期的に続けるつもりだ。キャンプにゲストとして招いている作曲家は第一線の人達だけれど、刺激を受けてくれているみたいだ。

 そんな感じで「山口ゼミ」は、続けるつもり。約2ヶ月間で8回というの講座を年4回やっている。実績も上がっているので、作曲家志望の友人知人がいたら、まずは説明会に来るように薦めてあげてください。

●東京コンテンツプロデューサーズラボ「山口ゼミ」公式サイト
●MUSICMAN-NET Special Interview 山口哲一×伊藤涼

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