2014年12月1日月曜日

世界初!(らしい) 「MUSICIANS' HACKATHON」大成功!新たな 歴史のページが開かれたのかも。

 エンタメ系スタートアップを応援するためのStart Me Up Awardsと同時開催のハッカソン。最近は、日本でもハッカソンは珍しくなくなってきているので、僕らが企画したのは、音楽家が必ずチームに居るという「MUSICIANS' HACKATHON」。欧米では音楽家がハッカソンに参加すること自体は珍しくないだろうけど、こういうスキームでやったハッカソンは世界初らしい。気持ち良い響きなので、言わせてもらっている。

 きっかけは浅田祐介さんとの会話。「ハッカソンってもっと面白く出来るよね?」。
浅田祐介46歳は元祖ギークな存在で、中高生の頃は楽器よりもコンピューターが好きだったのは知っている。「じゃあ音楽家が必ずチームに居るハッカソンやるから、U-ske君がキャプテンね」と、オーガナイザーとして、即座に任命した。

 彼の人柄と交友関係で、日本の第一線で活躍するサウンドプロデューサー、アーティストが集まってくれた。とはいえ、音楽家向けの説明会をやった時は、ほとんどの人はハッカソンがどういうものかわかってなくて、頭を抱えてた。プログラマーなどの一般参加者と、ゲスト音楽家を別々にFacebookグループをつくって、アイデアを募り、僕らが間をとりもったけれど、事前にチーム組成のメドを出しておくという目論見は、見事に外れ、正直なところ当日の朝は不安で一杯だった。

 結論から言うと、まったくの杞憂だった。アイデアを出し合って、チームを組む段階から、ものすごい熱量が出ている場だった。運営協力「リクルートテクノロジーメディアラボ」の伴野さんの仕切りの手腕も見事で、アイデアをぶつけ合いながら、約80人から、17組のチームができた。初対面、しかも異分野の人同士なのに、朝からエネルギーが溢れていた。会場協賛してくれたTHE SOHOは、オフィス兼住居ビルなんだけれど、非日常感もあり、東京お台場のキッチュさを体現しているスペースだった。ここでやれたのも良かった。協力してくださった皆さんに感謝。

 僕は、その後、Start Me Up Awardsの最終審査会のために、通り向かいの日本科学未来館に移動。戻ってきて、夜の中間発表の時には、もうみんな和気藹々だった。
 日本の第一線で活躍を続けている音楽家は、高いクリエイティビティと人間力を持っているのは知っていたつもりだけれど、今回も、そのパワーをまざまざと見た。キャプテン浅田が何度も何度も「こんなにみんなが目を輝かして何かを作っている姿を久しぶりに見た」と言っていたけれど、同感だ。中間発表が終わったときには、不安は大きな期待に変わっていた。

 寝袋で数日分の睡眠を取った翌朝は天気も快晴で気持ちよかった。15時にハッキングは終了して、16時から発表会。これが凄かった。17組全部が、発表をできること自体が、ハッカソンとしては珍しいらしい。チームの結束が固いのと、その場のテンションが高いのが印象的だった。

 一組4分間の発表会は、さながらエンターテインメントショーだった。感嘆と爆笑と満場の拍手がひっきりなしに起きた。詳細レポは公式サイトなどに載せるので、そちらを見て欲しいけれど、円ドルポンドの為替の動きに合わせて曲を奏でるFX-SOUNDとか、スマホが猫になって、曲を聴かせると性格が変わるアプリ「ねこゴロゴロ」とか、クレイジーな発想がたくさんあった。

 API提供会社の理解もありがたかった。主宰する僕自身もそうだけれど、音楽関係者はAPIなどのIT知識が乏しい人が多い。トンチンカンなことも多かったはずだけど、暖かい目で見守りつつ、サポートしてくれた。次にやるときは、API側との連携ももっと上手にとっていきたい。

表彰式は、歓喜に包まれていた。音楽では何度も賞を取っているはずの今井大介さんが、ガッツポーズで「本当に嬉しい」って言っていた。20代のプログラマー、デザイナーと一緒に作った「I am your DJ」というリコメンデーションは、SpotifyとGRACENOTEから表彰された。ツボを押さえていて、ストリーミングサービスが広まれば日本でもすぐ使われそうだ。

 最優秀賞をとったのは「日本パーティ党」。Kinectを使ってダンスのリズムを測定、リズムに近い楽曲を自動的に流すというサービスを見事に仕上げていて、完成度が高かった。チームメンバー、元ニルギリスのアッチュが名言で締めてくれた。「プログラムって、何をやっているかわかんなかったけど、一日でこんなものつくっちゃうなんて凄い!プログラマー最高!」
 感極まった受賞の弁を聞きながら、僕も涙が出そうになった。
 うん。また、やるよ。

 こんなことを続けていれば、何か凄いことが必ず起きる。日本の産業は、個々に旧い障壁で分断されて、パワーが落ちているだけで、潜在力は高い。異ジャンルのクリエイターがコラボレーションすればブレイクスルーは起きるはずだ。日本人のクリエイティビティを信じて、続けていきたい。

参加音楽家(順不同・敬称略):浅田祐介、松武秀樹、RAM RIDER、 渡部高士、 浅岡雄也、Yun*Chi、ミト (クラムボン)、松岡英明、岩田アッチュ(EX.ニルギリス)、藤井丈司、本間昭光、島野聡、今井大介、Neat's、1980YEN (ICHIQUPPA)、藤戸じゅにあ(THE JETZEJOHNSON)

追記(12/9):運営協力のリクルートメディアテクノロジーラボ伴野さんが、MUSHUP AWARDSのサイトに全作品紹介を載せてくれたので、見てください!
【ハッカソンレポート@SMUA2014】Musician’s Hackathon2014 〜全作品紹介〜

2014年11月30日日曜日

Start Me Up Awards 2014終了。これから始まるよ。

 エンターテイメント関連、メディアコンテンツ系のスタートアップを応援して、既存の業界と起業家をつなぐためにはじめたSTART ME UP AWARDS 2014の最終審査会&表彰式。
二次審査が通過した8社が、プレゼンテーションして、来場者の投票で受賞者を決めた。

 二次審査をお願いしたキュレーターは、
 石川真一郎 (株式会社ゴンゾ副社長・グロービス講師)
 尾田和実(ギズモード・ジャパン編集長)
 鈴木貴歩 (ユニバーサルミュージック・デジタル本部長)
 林信行(ITジャーナリスト)
 ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
 東明宏(グロービス・キャピタル・パートナーズ シニアアソシエイト)
 上森久之(トーマツベンチャーサポート株式会社 エンターテイメント テクノロジーセクター事業統括)

 二次審査では8人の目利きが、独創性、事業性、グローバル性、社会的意義、成長性、エンタメ性(ワクワク感)の6つの基準で総合的に評価。興味をもったサービスにはキュレーターとしてアドバイスを送るまでやってくれたので、最終審査はシンプルなアンケート投票型にした。
 
 最優秀に選ばれたのは、「LIVE3」というサービス「今夜なにする?を解決する」というライブのキュレーションをするというスマホアプリ。

一般の観客の投票により選ばれる「エンタメ賞」は、Spincoasterの「SONG PITTCH」。缶バッチ型の通信機器で自動的にプレイリスト共有できるというサービス。

 キュレーターからの評価が高かった「キュレーター賞」は、「Wovn」。サイトの他言語翻訳が簡単にできるサービス。

 惜しくも選ばれなかった5社のファイナリストも、二次審査からブラッシュアップしたプレゼンテーションを見せてくれた。引き続き、注目&応援しておきたい。

 ご協力いただいた皆様、ご来場いただいたベンチャーキャピタルや、産業革新機構の方々、本当にありがとうございました。

 審査会場の日本科学未来館の通りを挟んだ向かいにあるTHE SOHOでは、世界初らしい、音楽家がチームに加わるMUSICIANS' HACATHONが同時開催されている。
 エンターテイメントビジネスを活性化するには、新しいテクノロジーを活用した、イノベイティブなアイデアが必要だ。
 Start Me Up Awardsは、そのきっかけを作る場となるように、継続していきたい。僕らの未来はここにあると信じている。

2014年10月28日火曜日

日本にはエンタメ系スタートアップが必要だ!よね?? 〜Start Me Up Awardsやります!

 「ニューミドルマン養成講座」やってます。受講生は22名。どんな人がくるか心配だったけれど、意識の高い、やる気のある人達が集まってくれて、毎回の講座で会うのが楽しみになっている。
 ゲストの皆さんもありがたい。「ニューミドルマンはこうあるべきですね」って、それほど詳しく説明している訳では無いのに、僕のコンセプトを理解して、それを超える提案や意見を披露してくれる。今回の6人は、「音楽業界改革の同志」と思える人達を選んでお願いしたけれど、間違ってなかった。嬉しい。自分が講師じゃ無い時に、観に来てくれたりして、ギャラリー席が華やかだ。



 僕がやろうとしているのは、日本の音楽ビジネスの未来像を描くことだ。「ニューミドルマン」という概念を提唱しているのだから、そもそも「音楽ビジネス」というカテゴリー自体も無意味になるし、様々な業界の障壁も溶けていくというのが前提だ。
 ただ、ITジャーナリストな人達や未来先取り風の文化人が言いがちな「どうせなくなるだから壊しちまえ」的な論旨には、僕は絶対、組みしない。日本の音楽業界の仕組みには素晴らしいところがたくさんあるので、それを発展的に継承したい。「プロ作曲家育成」なんて看板を掲げて「山口ゼミ」を始めたのもそういう思いからだ。ニコ動を中心としたUGM型のムーブメントは、とても面白いと思うけれど、未来の日本の音楽をボカロPだけに託す気持ちにはなれない。正統派のプロ作曲家、実力のあるサウンドプロデューサーを育てたい。

 前置きが長くなってしまった。Start Me Up Awardsというエンタメ系スタートアップを対象としたアワードを立ち上げたのも、動機はまったく同じだ。他の業種もそうなのかもしれないけれど、日本のメディアコンテンツ系の業界(いわゆるギョーカイ)は、独自の発展をして、ガラパゴスに蛸壺化してしまっている。全体のパイが右肩上がりの時は良
かったのかもしれないけれど、もうとっくに限界だ。蛸壺の内側だけを見ていると、「もう俺の業界はダメだ」って思うけれど、二歩くらい上から俯瞰して眺めることができると、たくさんのビジネスチャンスが眠っている。
 「業界横断型プロデューサーが必要」というのは、以前から言われていることだけれど、業種を超え、既成概念を疑って、グローバル市場への視点を持てば、日本人の強みを活かせるところはたくさんある。

 日本のコンテンツ業界ができていないのは、「デジタルファースト」。新しいテクノロジーをビジネスに活かすという当たり前のことに対して、遅れている。欧米は、ITベンチャーが音楽と一体となって、共に発展しているのに、日本は対立していると言うよりは、無関係だ。距離が遠い。Start Me Up Awardsは、ITベンチャーや起業家志望者と、音楽業界、メディア業界、既存の大企業が接点を持てる場にしていきたい。まだ間に合うと信じている。実際、このプロジェクトをやろうと思って動き始めたら、いろんな人達が共感して、jointしてくれた。朝日新聞メディアラボ、リクルートテクノロジーメディアラボ、スペースシャワーネットワーク、トーマツベンチャーサポートなどなどなど。大企業も新しい部署をつくって、ITとベンチャーの流れに接点を持とうとしている。ベンチャーキャピタルもあっという間に集まって、12社以上が最終審査を見に来てくれる。官製ファンドの「産業革新機構」もオブザーバー参加してくれる。

 ハッカソンもやる。アーティストやサウンドプロデューサーが、チームに必ず1人いるというハッカソンというのは「世界初」らしい。欧米では、音楽家とプログラマーが一緒に何かをつくるって、珍しくもなんともないけれど、当たり前すぎて、わざわざハッカソンとして組成しなかったらしい。
 米国でハッカソンを覗きに行くと感じるのは、本当に自由と自主性に溢れているなと言うこと。僕らは日本でやるので、その哲学はリスペクトしつつ、日本人らしいきめの細かさのある運営をしたい。チーム組成も丁寧にやりたいし、その日限りではなく、継続してフォローアップしていきたい。 
 
 起業家および起業家志望のみなさん!是非、Start Me Up Awardsに参加して下さい。書類締切は11/10です!
 エンターテインメントの定義は自由。食やファッションはもちろんのこと、B to Bだろうと、医療だろうと、やっている人が「これはエンタメだ」と思えばOK

 音楽に興味のあるエンジニアやデザイナーは、ハッカソンに申し込みを!浅田祐介キャプテンを中心に意識の高い音楽家が、下は20代から、還暦を超えた「4人目のYMO」松武秀樹さんまで、集まってくれている。イケてるエンジニアの参加が待たれる。
 ここから、新しいサービスや表現がきっと産まれることだろう。今からワクワクしている。歴史の針を動かそうよ!



2014年10月11日土曜日

「西野カナdarling現象」で再認識するクチコミパワーと新ランキングRUSHの魅力

 最近、注目&応援しているネット上のクチコミを楽曲の人気指標化したRUSH。毎週金曜日に発表されたら必ずチェックするようにしている。音楽プロデューサーとしての定点チェックとしてだけでなく、CREAwebで「来月流行るJポップ」というコラムを連載するようになって、リリース前の人気曲がわかるので助かっている。

 10/10付のRUSH総合ランキングを見ていたら、813日リリースの西野カナdarlingが突然、総合3位に入ってきたので、びっくりしてリサーチしてみた。

 おそらく理由は、ある女子高生による、このツイートだ。
 「Darling」の歌詞に合わせた漫画を描いて、ツイートしたのが公式RTだけで3万を超えている。

 早速、「RUSHニュース」でも分析していた。この記事の内容におおむね賛成だ。

 Yahoo!のリアルタイム検索の結果を見ても、ツイートの1回目と、続編の漫画を投稿した2回目のツイートと、そのタイミングが明確に連動している。
 そして、注目が集まったことに合わせて、iTunes Storeのダウンロードのチャートでも1位になっている。仮にRUSHのランキングアップだけだとしたら、ネットで騒がれただけでしょ?という判断もできるけれど、実際に売上にも結びついているのがすごい。TwitteriTunes Storeの相性の良さは、日本でも欧米でも一般的に語られていることだけれど、今回も証明されている。

 今回の西野カナ「darling」は、歌詞が女性に人気だという噂は耳にしていたけれど、歌詞の世界に触発された無名の女子高生の漫画が、発売2ヶ月後に人気を再燃させるとは誰も予測できなかっただろう。レーベルのPRはリリースタイミングに集中しがちだし、発売日にピークを持って行くのがマスプロモーションの常道だったりするけれど、ユーザーに刺さるのは、新譜リリースタイミングだけでは無いのは当然だね。


 RUSHチャートでは、3週間前にも嵐の数ヶ月間のリリース曲がチャートに入ってきていた、何だろう?と思ったら、ハワイ公演の影響だった。ハワイは彼らにとって縁の深い土地だからファンにとっても特別なのだろう。周知の通り、ジャニーズ事務所は音楽配信を原則的にやっていないので、iTunesなどへの跳ね返りは無かったけれど、もしライブに合わせて、期間限定でも配信をやっていたら、コアファン以外にも広がるチャンスだったかもしれない。

 オリコンは、相変わらずCDの売上という「所有」のチャートに固執している。年間アルバムチャートなら一定の意味があると思えるけれど、週間シングルチャートは、人気楽曲の指標としては機能を失ってしまって久しい。
 Billboardのジャパンチャートは、ラジオのオンエアー回数、ダウンロード数に加えて、レンタルCDでの人気も反映できるルックアップ数(CDをリッピングしてCDDBにアクセスした回数)まで反映されたランキングを作っていて、すごく頑張っているなという印象。

 そんな中で、新たに出てきたネットのクチコミを人気楽曲の指標にしたRUSHの魅力は、「近未来予測的なランキング」であること。RUSHのアナリストと話をしてみると、リリース1週間前に、オリコンランキングは、ほぼ予測できていて、複数買いなどで「作られる」ランキングと楽曲そのものの人気も区別して見ることができているそうだ。既に解析の仕組みは出来ていて、どうやってわかりやすく伝えるかを検討しているという。日本語で書かれたブログとTwitterの全てを解析して、文脈によるネガティブ、ポジティブなども考慮し、数々のノイズ的な投稿を削除する仕組みだというが、毎週見ていると、リアリティを感じられるランキングになっているのがわかる。

 RUSHは、現在、グロースハッカー的に関わってくれるスタッフを募集しているそうだ。音楽メディアや音楽サービスに興味のある人は、応募してみてはいかが? 
 ●RUSHランキングを世に送り出すグロースハッカー募集

 新しいテクノロジーやメディアを活用すれば、音楽市場や音楽シーンを活性化するんだなと、今回の「西野カナdarling」現象で、改めて思った。だからこそ、LINE MUSICもSpotify Japanもアメブロの音楽サービスも、一日も早く始まって欲しいと心の底から願っている。

2014年9月22日月曜日

THE BIG PARADE佐野元春さんとの対談録〜パレードは続く

 代官山エリアで始まったデジタル時代の新型ミュージックフェスティバル「THE BIG PARADE」。その幕開けにして、メインイベントの一つで有る佐野元春さんのキーノートスピーチにモデレーターとして登壇した。
 音楽性や文化論ではなく、メディアやビジネスについてアーティストに語ってもらうというスタンス。

 TBPのお手本の一つであるSXSWでは、毎年ビッグアーティストのスピーチが注目されている。今年もLady GAGAのキーノートや、Neil YoungPONOに関するセッションが話題を呼んだ。僕も会場で見ていたけれど、大物アーティストが、ビジネスも含めて本音で語っていて面白かったし、聴衆に刺激を与えていた。
 企画が立ち上がったころから、TBPにはアーティストキーノートが重要だと思っていた。佐野元春さんと小室哲哉さんに参加してもらえて、本当に良かったと思う。

 佐野元春さんは、いち早くセルフマネージメントを始めたアーティストだし、テクノロジーへの取り組みも先駆的だった。アーティストが独自のデジタルチームを持ったのは日本初だったと思う。当日知ったことだけれどniftyBBSで集まったファンと一緒にインターネットの研究をしたのが、今のMotWebServerの源流だという話や、その頃のブラウザは日本語表示ができないNetscapeだったという、佐野さんの先進性を思い知らされるお話しだった。

 惜しまれながら昨年亡くなったヤングジャパングループの細川健さんのお話しができたのも嬉しかった。佐野さんを見いだして、裏で支えていた方だ。僕もお世話になった。昨秋に渋谷公会堂で行われた細川さんのお別れ会での佐野さんの引き語りは感涙ものだった。佐野さんが自分の意思を貫けたのは細川さんのバックアップが大きかった。

 丸山茂雄さんのお話も興味深かった。佐野さんが育ったEPIC/SONYをつくった人だ。プロ野球で言えば長島茂雄みたいな存在で、みんなの憧れ。「28分じゃ巨人の4番はつとまらないように、この業績ではソニー(Sony Music Entertainment)の社長として失格だ」と、メチャカッコイイ発言で退社して、mf247という音楽配信サイトをつくった。
 佐野さんを取り巻く人達は多彩だったのだと改めて実感した。

 パッケージと音楽配信、ストリーミングや高音質など、テクノロジーについての話は弾んだ。
 佐野さんはアーティストとしてのスタンスを保ちながら、堂々とビジネスを語り、テクノロジーに対する高い見識を見せてくれた。横で聞いていてすごく格好良かったし、TBPらしさを示せたように思う。
 来年のツアーで「18歳以上は無料にする」という宣言がメディアには拾われていたけれど、テクノロジーへの見識やアーティストとしての矜持や社会性の持ち方についての発言が僕には刺さった。

 何年後かにTHE BIG PARADEが広く認知されるイベントになった時に、語り草になるような、そんな1時間だったと思う。レジェンドとなる場に同席できて、光栄だ。

 企画が立ち上がった去年からずっと関わってきたけれど1314時に僕の仕事は終わり、そこから三日間はこのイベントを堪能した。ファウンダーの鈴木さん、牧野さんを始めとした関係者の皆さんに心からの敬意と賛辞を捧げたい。今回のことが、日本の音楽業界のターニングポイントにできるかもしれない。
 場にバイブレーションがあったと思う。本家SXSWには、規模は遠く及ばないけれど、同じ種類のワクワク感があるなと、旧山手通りを歩きながら思った。デジタル化の進展によって、様々な業界の障壁を溶かして、ビジネスモデルの再構築、再定義が求められている。殊更に、音楽とITは欧米では密接に関係して発展している。そのためには、業種の壁を越えてコミュニケーションをとり、考える場が必要だ。

 音楽とITの美しい関係ができるために、このパレードは、来年へと続いていく。僕も一緒に歩いて行きたい。

2014年9月4日木曜日

音楽ビジネスに「ニューミドルマン」が求められている!

 メルマガでは前振りしていたけれど、新たなプロジェクトを立ち上げることにした。ぶっちゃけモードで気持ちを吐露すると「マジで超アタマにきた」のが理由。
 僕は日本の音楽業界で育ったし、今でもこの業界が好きだ。また、日本人には中庸の知恵があるはずだから、「デジタルファースト」という世界の趨勢に周回遅れにはなっているけれど、さすがに今年は巻き返すと信じていた。だから新年にはこんなエントリーも書いた。
 ●独断的音楽ビジネス予測2014 〜今年こそ、音楽とITの蜜月が始まる〜

 詳しいことは書けないけれど、Spotify Japanは夏前には始まると思っていた。LINE MUSIC6月から始まると聞いていたし、オープニングイベントのモデレーターも引き受けていた。J-POPを国策として海外に売っていこうという時代に、日本の音楽市場のサービスが世界水準に遅れているのは、国益を毀損している。何故、そうなっているのかは、概ねわかっているけれど、もちろんここには書けない。本当に日本の音楽業界を愛しているというのなら、僕は「テロリスト」になるべきなのかもしれない。効果的なテロの方法はわかる。結構、まじめに悩んだけれど、自分のIDは、音楽プロデューサーだ。具体の成功例で、ヒット曲やスターアーティストを生み出すことで世の中を変えていきたい。

 悩んだ末に、セミナーを始まることにした。
 作曲家育成の「山口ゼミ」をやってみて、望外にうまくいったというのも理由の一つだ。メジャーデビューが作曲家やサウンドプロデューサーのインキュベーションの機能を果たさなくなっている近年、何かしなくちゃという危機感が原動力だった。予想以上に求められていたし、手応えがあった。次は、スタッフを育てたい。
 グローバル視点でクオリティの高いコンテンツを出すプロジェクトは既にいくつか準備している。でも、ブレイクスルーするには、もう少し根元から変えなきゃダメなんじゃないかと思う。新しいエネルギーが必要だ。
 「山口ゼミ」を始める時も「自社のアーティストを育てる気持ちで、弟子を取るようなスタンスで」と思ったけれど、今回は、これからの音楽業界、エンタメ・コンテンツ業界を伸ばしてくれる人材を輩出できるような場をつくりたい。

 ITに詳しい人は、「中抜きの時代」だと言う。アーティストが直接、ユーザーとコミュニケーションをとるのだと。もちろん、本質はそうだ。ただ、アーティストとユーザーだけでは、イノベーションは起きない。もう一つ役割が必要だ。中間会社=ミドルマンという概念は、目新しくないけれど、マネージャーもA&Rもプロモーターも音楽ライターもITサービス事業者も、アーティストとユーザーの間に入るという意味では、同じ職業で、新時代に対応する必要がある。そのことを「ニューミドルマン」と呼んだみた。他の業界でもそうだろうけれど、特に音楽では、「ニューミドルマン」の役割が重要だ。時代を変える起爆剤になるはずだ。

 余談だけれど、最近よく使う喩え話。近況を問われた時に「僕はホームラン王とりたくて、この仕事始めたんだすよ。でも、最近は、アウト3つでチェンジでいいですか?とか、野球場の形はこのままで大丈夫ですかね?とか訊かれることが多いんです。ルールをどうするかも大事なので両方やってます」って答えてる。みんな笑って理解してくれているみたいだ。

 無知からくるデジタル恐怖症と、保身のために従来型のビジネスモデルを守る力学で、日本の音楽業界は、衰退の道から抜けられずにいる。
 少し視野を広げるだけで、大きなチャンスが広がっているのに、すごく惜しい。音楽産業が「オワコン」扱いされていて、本当に悔しい。ITサービスについて語るのは、音楽の力を信じている人ではないというミスマッチも、とても悲しい。
 欧米では、音楽サービスが異常に高い時価総額や、びっくりするような大型投資を得ている中、日本は、「CD売れない」みたいな話題に終始している。

 本当に変えようよ。音楽の力を信じている人達が、新しいテクノロジーを活用して、市場を活性化する、そんな当たり前のことを日本でもやろうよ。
 少なくとも俺は本気でやる。

 そんな昂ぶった気持で檄文を書いてしまってので、これを読んでみて欲しい。ゲストは超豪華。二つ返事で引き受けて下さった。みんな改革の同志たちです。
 ●ニューミドルマン養成講座〜これからの音楽で稼ぐには? 

 何を言っていんのこいつ?という人は、無料のトークイベントもやるので、来て欲しい。9月8日(月)19時から代々木のMUSE音楽院本館で。

 ●ニューミドルマン養成講座開講記念トークイベント「デジタルファーストで行こう」
ゲスト:
野田 威一郎(tunecore Japan代表)/高野 修平(トライバルメディアハウス)

2014年8月26日火曜日

「アイスバケツチャレンジ」私感〜今更だけど「ダサカッコイイ」について考えてしまった。

 8月23日に「アイス・バケツ・チャレンジ」で、氷水をかぶった。
あまりに流行ったので、賛否両論になっているこの現象について、自分の体験と気持ちをメモしておきたい。

 僕のFB上でバケツで水をかぶる映像が出始めたのは、8月の上旬頃からだろうか?米国発の難病啓発キャンペーンとして、日本にも波がやってきて、友人達が次々に参加していった。SNSを活用の普及成功事例として、興味深く見ていた。

 22()の午後に、ZELSの田口さんから「アイスバケツチャリティ指名してもいいですか?」とメッセージが来た時は、一瞬戸惑った。「あー、やるなら2週間位前だよな。今やるのは、ダサいな」というのが正直な感想。既に、前日の夜には地上波のテレビ番組で紹介されていたのを見て、もう一般化したんだなと思った矢先だった。

 ネット上の批判の意見も多く見た。「売名行為だ」「水をかぶるのに意味が無い」「寄付は自主的にちゃんと考えてするべきで、啓蒙になっていない」「チェーンメールみたいで気持ち悪い」等々、真っ当な批判も多かった。
 ちょっと考えたけれど、やることにした。それほど深い理由は無いけれど、ソーシャルメディアの専門家風な立場としては、機会があれば何でも体験しておくべきかなと思ったのと、頼まれた人が好きな人だからだ。田口さんに頼まれて、同じ事を引き受ける自分がちょっと嬉しかった。
 翌日に「作曲家リレートーク」というイベントがあって、「山口ゼミ」の弟子達がたくさんいるのも良いなと思った。どうせやるなら自宅でやるより、人がいた方が楽しい。会場のMUSE音楽院にバケツなどの手配をお願いして、スタッフにも連絡をした。次にやったのは、バトンの相手先を決めておくこと。友人だとしても、強制では無いにしても、勝手に名前を挙げるのは無いなと思い、メッセージで許可を求めた。

 3人の人選は自分の中ではあっさり決まった。感覚的なものだったけれど、決めた後に、後付けで理屈を考えたら、以下の理由だった。
  洒落が理解できる大人なこと
  自分が信頼できる友人であること
  ソーシャルアクティブで、一定の影響力があること
  自分と違うコミュニティを持っていること
瞬間的に選んだ人の共通点は以上だった。

 女性を選ぶのは考えにくいし、極端に歳下だったりすると、強制的に感じられるかもしれない、みたいなことも思っていた。
 3人とも快く受けて下さって、嬉しかった。

 その日の夜は、改めて「アイスバスケットチャレンジ」現象と、ALSという病気について、ネットで調べてみた。WIKIPEDIAALS協会のサイトを見る程度だったけれど、自分なりに、知識の確認はしておこうと思った。
 同時に、自分がやる理由についても改めて考えてみた。普段の僕の言説は、すでにブームになってしまった「アイスバケツ現象」を批判する人達に近い気がする。「表層に流されずに本質を見ようよ」「一時的なブームは、時には逆効果だよ」という意見には、その通りだと思う。
 でも、友人から自分にバトンが回ってきた時に、もう一般化しているタイミングで、ダサいことを引き受ける自分でいたいなと思った。ダサいことを堂々とやれる男でいたいなと、普段から思っているから。
 J-POPの音楽プロデューサーとして、「ダサカッコイイ」ことを堂々とやり抜かなければいけないという職業的な強迫観念みたいなものを持っているのも関係あるかもしれない。

 実際にやるのは一瞬のこと。白いTシャツが敗因で、最近、猛暑に負けてGYMをサボって。腹が出ているのがモロバレ映像なのが心から残念だけれど、一瞬のお祭りだった。
 既にやってしまった自分が、どうだったのか、よくわからないけれど、忘れないうちに、自分の感じたことをメモしてみた。
 なので、今回のエントリーは、特に誰に対しても何も訴えていないつもり。

 銀行振込で寄付もした。元のルールは、100ドル寄付 or 水をかぶるらしいけれど、両方やる人が多いようだ。寄付先は、日本ALS協会で、金額も1万円にした。独自性を出さずにルールに従う心地よさもあるなと感じた。

 ちなみに、氣志團の綾小路翔さんがTwitterで賞賛していて知ったブログの記事がこれ。
 まじめに語るとこういうことなのだと思う。参加して良かったと思えたので、ありがとう!

 そんな感じで、やってみて、思うのは、水をかぶるのは祝祭性があるんだなと、お祭りっぽい感じだから広がったのだと思う。タイにも水掛祭りってあるよね。ただ、観ていても一種のカタルシスがある。だから反感もかうんだろうね。
 バトンを渡した3人の映像を見て、なんかうまく説明できないけれど嬉しい。こういう連鎖があるのは、言葉を選ばずに言うと、楽しいね。

 ドマジになりすぎず、でも不真面目でも無く、アイスバケツチャレンジをやる友人がいて、そんな連鎖があったことは素敵な体験だった。
 





 いろんな意見があって良いけれど、「啓蒙」って、関心を持ってない人に考えるきっかけを持ってもらうことだから、広まるほどに、薄まるのは自然で、目的は十分に達成しているんじゃないかな。
 ノンポリ的なスタンスで、アイスバケツチャレンジに参加してみて、そんなバカっぽい感想を持った。