2013年11月4日月曜日

JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配


 音楽ビジネスに関する記事が新聞の一面記事になることは珍しい。東京高裁が公正取引委員会の審決を取り消したことは、112日付けの朝日、読売、毎日朝刊で、トップ記事になっていた。著作権への関心が高まるのは嬉しいことだけれど、記事の内容には、首是できない部分も散見された。
 

 包括契約というのは、JASRACが、放送局と結んでいる契約の形態のことで、信託されている楽曲をまとめて許諾している仕組みだ。この契約が、他の著作権信託会社の参入障壁になっているというのがイーライセンス社の主張。公正取引委員会が行った審理で、認められなかったので、東京高裁で争われていた。
 私見だけれど、東京高裁の今回の判断は妥当だと思う。JASRACだけが放送使用料を受け取る状態は異常だ。新聞論調もJASRACを批判するものが多かった。
 ただ、JASRACを悪者に見立てて、事態を理解するのは、短絡的だとも思う。

■ポイントは、放送局側の協力姿勢

 放送局の音楽の使用については、本来、使用者である放送局が、許諾を受け、使用の詳細を報告する義務がある。包括契約は、個別の許諾もなく、また番組制作の予算管理上も煩雑にならず、スムーズな番組制作と音楽流通という面では、大きなメリットだ。そのメリットを享受しているのは放送局で、法律が変わり、著作権管理団体が複数になったのであれば、それに対応して、使用報告や許諾交渉を行うのは、当然の事。99%超と言われる放送使用におけるJASRACのシェアは、JASRACの責任もあるのだろうけれど、それ以上に放送局側の姿勢や楽曲管理の体制が生んでいる側面が強い。

  また、イーライセンス側の弁護士が「(包括契約は)料理で言えば『食べ放題のビュッフェだけ』みたいなもの。アラカルトが楽しめないのはおかしい」と批判している(112日付毎日新聞)けれど、かなり的外れな発言だと思う。TVやラジオにおける著作権使用の実態を知っているのだろうか?
 放送番組をつくる際に、商業化されたほとんどの楽曲が自由に使えることは、コンテンツ制作上は便利で、そこに個別の許諾を紛れ込ませようとしているように聞こえる。これまでの楽曲使用の自由は担保した上で、総合的に、生態系として成り立つ報酬体系を再構築するというのが、本件のポイントのはずだ。

JASRACの貢献と古い体質からの脱却の動き

 これまでの日本の音楽市場、コンテンツ産業におけるJASRACの貢献は、非常に大きい。アジアなど新興国と比較しても、日本みたいに楽曲の使用に対価を払うという思想が浸透している国は少ない。「欧米並み」という言葉は好きでは無いけれど、国際的に胸が張れる著作権管理体制を日本が持っていることはコンテンツ産業にとって大きな日本のアドバンテージで、JASRACが果たしてきた役割は大きい。
 以前より、「カスラック」と蔑称するネットユーザーは減ったようだけれど、全ての悪をJASRACに押しつけるような風潮を感じることはある。その種の発言は、勘違いも多く、濡れ衣を着せられているケースも散見する。JASRACの功績について、日本人はもっと評価するべきだと思う。

 一方で、JASRACが古い体質を引きづっているのも事実だ。JASRACの運営は作詞作曲者と音楽出版社によって行われるので、理事や古い会員には、高齢の作曲家先生も多い。発想や視点が守旧的になりやすいという構造を持っている。JASRACの設立は1939年。長い歴史があり、昔は「とれるところから、できるだけたくさん使用料を取って、クレームが出ない程度に、大まかな基準で分ける」というやり方も、やむを得なかったのだろうけれど、デジタル技術が進化した今、体質改善は求められている。

 僕が代表のBUGコーポレーションという会社もJASRAC正会員になって、10年以上になるけれど、不満はある。例えば、コンサートもカラオケも同じ「演奏権」という区分にして、25%という高い手数料を取っている。カラオケ店が乱立していた頃ならいざ知らず、今は通信カラオケの時代で、第一興商とエクシングの二社の寡占状態だ。片田舎のカラオケスナックでの使用料が徴収できなくてもよいから、手数料を10%以下に下げて欲しい。まして、コンサートにおいては自社が「著作権使用者」側になることも多く、自社のリスクで、所属アーティストがコンサートをやっているのに、JASRACに払う著作権使用料から25%の手数料が取られるのはあまりに理不尽。CDよりライブエンターテインメントの比重が高まっている昨今、手数料改定がされなければ、演奏権をJASRACから引き上げ、自己管理する音楽事務所が出てくるだろう。特に海外来日アーティストの問題提起がきっかけで、日本のコンサートにおける著作権使用料は増額している。高率の手数料は納得がいかない。
 とは言え、全体として俯瞰して見れば、日本のコンテンツ産業の発展に対して。JASRACの功罪は、功の方が圧倒的に大きいのが実情。近年は、理事長、会長も替わり、前述の古い体質からの脱却も始まっているように感じている。既得権益を守るのでは無く、日本のコンテンツ産業が活性化する方向での運営を期待したい。

■イーライセンスのやり方も褒められない

 一方、正義の味方、被害者という位置づけのイーライセンス社だけれど、僕は必ずしも支持できない。これまでやってきた「戦い方」が乱暴過ぎるからだ。自社に徴収、分配できる状態かどうかを判断せずに、放送局に対して、いきなり著作権使用料を求め、使用を差し止めるのは、やり過ぎだと思う。
 包括契約によって、倖田來未など一部アーティストの楽曲の契約が無くなったことを裁判所が重視したとの記事もあったけれど、あまりに乱暴な姿勢に、権利者が嫌気をさしたのかもしれない。プロデューサーやマネージャーの立場で、自分が関わるアーティストの大切な楽曲を、どこに信託するかという時に、今のままのイーライセンスは、率直に言って、選びづらい。礎のロジック自体は正しいと思うし、問題提起は十分に果たしているのだから、今後は、本当の意味で権利者と使用者の利益を、広い視野で追求する会社になって欲しいと思う。

 実際、「第2JASRAC」と呼ばれる中には、素晴らしい会社もある。僕は自分が関わる作品は原則的にJRC(ジャパン・ライツ・クリアランス)に信託することにしている。JRCは坂本龍一や、L’ArcenCiel、スピッツ、THE BOOMなどのたくさんのヒット曲も管理している。荒川社長はITサービスにも造詣が深く、USTREAMやニコニコ動画などの新しいITサービスともいち早く交渉の場を持ち、権利者の利益を守りながら、新サービスの発展にも寄与するというスタンスで活動している。前述したカラオケなどの演奏権もJRCに管理して欲しいのだけれど、「完全な状態で徴収分配する準備ができてない」という理由で、慎重に構えているようだ。良い意味でJASRACと競い合うような存在になって欲しいし、一部のITサービスなどにおいては、既になり始めている。

■キーワードは「デジタル技術を活用した、ガラス張りの徴収分配」

 実は、本件の問題点、放送局の著作権使用料の包括契約については、解決の道筋は見えている。キーワードは「デジタル技術を活用したガラス張りの徴収分配」。2009年設立のCDC(著作権情報集中処理機構)を中心に、NTTのオーディオフィンガープリント技術を活用して、放送で使われた楽曲をサーバーに貯めて、クローリングを行って、全曲を割り出してのデータ制作が始まっている。CDCを中心に、NTTDATAなどが協力をして、全曲データを作成、分配データには使用されている。近年は精度もあがり、データ量も増え、かなりの確率で、楽曲が特定できる。放送局からの使用報告が簡単になり、正確な使用データができるのだから、一石二鳥だ。

■著作権管理における「競争」とは何か?

 この方式を徴収にも適用すれば、信託団体の差違は問題では無くなる。問題は、使用料の交渉は、相対で、交渉力で決まるということだ。一部の新聞記事には「この判決をきっかけに競争が起きることが期待できる」という、「競争=善」という論理の、思考停止的な内容があって、残念だった。どんな土俵で、何について誰が競争するか語らなければ無意味だ。放送局での楽曲使用料は、公的は話し合いで決められるのが、適切だと思う。信託団体の交渉力では無く、権利者側と放送局者側が第三者も交えて、年間の使用料総額を決め、分配については、全量データを基に、各団体が行うというルールにできれば、権利者は、とりっぱぐれを心配せずに、著作権信託会社を選ぶことができる。


 著作権の徴収と分配は、コンテンツビジネスの礎だ。今回の東京高裁の判断が、音楽ビジネス活性化の方向で活かされることを期待したい。


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9 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

> また、イーライセンス側の弁護士が「(包括契約は)料理で言えば『食べ放題のビュッフェだけ』みたいなもの。アラカルトが楽しめないのはおかしい」と批判している(11月2日付毎日新聞)けれど、かなり的外れな発言だと思う。

えーと、あなたの認識は大間違いです。
http://slashdot.jp/comments.pl?sid=438333&cid=1508613

問題は独占事業者による包括契約が、独禁法違反だってことです。
詳しくは独禁法を勉強して下さい。

それとも、わざとかな?TV局から金貰ってる立場なら、TV局擁護の記事を書く動機には事欠きませんよね。この文書の中で独禁法について一言も触れてないのは異常です。

匿名 さんのコメント...

>以前より、「カスラック」と蔑称するネットユーザーは減ったようだけれど、
周知されて言うまでもない事実となっただけです

Norikazu Yamaguchi さんのコメント...

私の文章がわかりにくかったようで、すいません。
今回の高裁の判断は、私は妥当だと書いています。
また、TV局からお金を貰っている立場というのは、あなたの認識違いですし、そもそもこのエントリーがTV局擁護だというのもよくわかりません。
公取の審決というのは、独禁法を前提にしているのは当然なので、殊更触れる必要は無いと思いました。言葉不足かもしれませんが、異常という指摘はわかりません。私は法律の専門家では無いので、音楽業界やメディア業界の活性化のためにという視点から書きました。

匿名 さんのコメント...

全文を読めばとても判りやすい内容でした。
認識の誤りも、言葉不足もないと思います。
前段よりも、後段のデジタル技術の活用が興味深かったです。

匿名 さんのコメント...

>放送局に対して、いきなり著作権使用料を求め、使用を差し止めるのは、やり過ぎだと思う。

とのことですが、イーライセンスが放送局に対して使用の差し止めを求めたことはあったんでしょうか。
審決を見る限りはむしろ無償化したようなのですが。

匿名 さんのコメント...

無償化というのは本当でしょうか。もしそうなら、大事な権利を手放すということですよね。イーライセンスさんはどんな交渉をしたのか気になります。

匿名 さんのコメント...

「詳しくは独禁法を勉強してください」というのは非常に大人げない。

そもそも判決文は、「本件行為が独占禁止法2条5項所定の排除型私的独占行為に該当するための,その他の要件を充足する否かについて,認定判断をするべきである。」として原審決を取り消したまでである。どこにも独禁法違反と認定した個所は見当らない。

独禁法違反かどうかは,差し戻し後の公取が認定判断することだ。自身の粗読を棚にあげて、さも自分は理解しているような口ぶりで「勉強して下しさい」などと中傷にも似た物言いをするとはまともな大人のすることではない。自身のモラルと知識について再検証されたい。

匿名 さんのコメント...

「原告とエイベックス・グループは,NHKを除く放送事業者に対し,同年10月1日から同年12月31日までの期間,エイベックス楽曲の放送等使用料を無料とする旨決定した。」と判決にありましたよ。

匿名 さんのコメント...

公取の審決データベースに判決文がアップされてますね。民放連に対しイーライセンスの弁護士が「最後の手段としては裁判手続きも考えられる」と言ったみたいですね(81頁)。こちらの記事によると、イーライセンス代表は弁護士2名を伴って現れ恫喝まがいの発言をした、とあります。
http://japan.cnet.com/news/business/35014987/2/

無償化は、イーライセンスがH18年12月末までに放送局と何らかの決着をつけるのと引き換えに、エイベックスが決めたことのようですね。結局決着がつかず、エイベックスは管理委託を引き上げたようです(90頁)。