2013年11月10日日曜日

もう日本のプロ野球を真剣に観ないと決めた理由〜日本シリーズ2013〜

 今年の日本シリーズは盛り上がったようだ。東日本大震災から復興途中の東北をフランチャイズとする楽天イーグルスが、読売巨人軍を破っての日本一。空前絶後の記録を残したマー君こと田中投手の存在。話題になる要素が多かった。僕自身も、楽しみにしていた。
 第7戦まで戦い、高い視聴率を誇って、楽天が日本一になって盛り上がった。結果は良かったし、水を差したくは無いけれど、このままでは日本のプロ野球は、駄目になるのではと心配だ。

 野茂投手が大リーグで活躍するようになってから、多くの試合が日本で観られるようになった。イチロー、松井秀喜に続いて、ダルビッシュまで渡米し、日本人の野球ファンにとって大リーグは身近な存在になっている。今年のワールドシーリーズを制覇したボストン・レッドソックスの胴上げ投手は、上原だった。
 日本のプロ野球が大リーグの下部組織化して、空洞化していくのではないかという懸念の声も聞かれる。

 僕は、野茂以降の日本人選手の大リーグでの活躍ぶりは、日本野球のレベルの高さを証明することと前向きに受け止めてきた。実際、その価値はともかくとして、WBCでも第一回、第二回は優勝することができた。
 送りバントの多用などいわゆる、日本的野球の作戦は批判されることが多かったけれど、バレンタインやヒルマンなど、日本からの「逆輸出」された監督の出現で、評価が上がっている。

 日本人野球ファンの楽しみ方も、日本野球の強みだと思う。投手の継投策や、ヒットエンドランなど「小技」な作戦選択に感情移入する日本の野球ファンは、爽快感と参加意識を求める米国野球ファンよりも深みがあると思うし、日本野球を成長する原動力にもなっていると思う。日本人は何でもにするというのは功罪あると思うけれど、「野球道」的な視点を僕は、日本野球ファンの一人として愛している。

 さて、今年の日本シリーズ。星野、原両監督の采配に、そんな野球ファンを満足させる繊細さはあっただろうか?全試合の子細をチェックした訳では無いけれど、「勝つために、あらゆる策を尽くす」という日本人好みには応えていなかったように思う。選手起用にも工夫は見られなかった。「シーズン通りの野球」というのも一つのポリシーなので、否定はしないけれ、これが野村、森、落合、など名将と言われる監督だったら違う作戦はあっただろうなとは思う。
 
 僕が一番、批判したいのは、星野監督の田中投手の起用法だ。今季のスペシャルな成績から言って、「日本シリーズはマー君と心中」という方針をとるのは、賛成だ。多少の負荷を掛けても、良いと思う。でも、もしそう思うなら、第1戦先発だったはずだ。第1戦を避けた時点で、どこかを故障したのかと思った。第2戦を観て、それは杞憂だと知った。その時に僕は「星野監督は、指名打者の使えるホームゲームである第2戦と第6戦を田中投手に任せるという作戦にしたのだ」と思った。普通に考えれば、第1戦、第5戦と先発で投げて、第7戦はリリーフ登板待機、星野監督の性格と今の楽天の戦力なら、第1戦、第4戦、第7戦の先発という選択肢もあったから、ちょっと意外に思った。一般的には巨人の戦力の方が層は厚く、14敗の可能性もあったから、勇気のある選択だとも。

 短期決戦は、何が起こるかわからない、32敗で第六戦を迎えて、マー君の先発。今年の田中投手は時の利があるな、星野監督は賭に勝ったと思った。結果は、今年初の黒星がマー君についてしまったけれど、160球超を投げさせたのは、理解できるし、美しい在り方だった。
 第七戦に登録して、登板させたのは「本人の意思だ」と、星野監督自身がメディアで語っているけれど、リーダーとしての資質に欠けた発言だと思う。そりゃあ、ピッチャーに聞けば、投げたいっていうでしょ?リーダーの最大の仕事の一つはリスクヘッジだ。そういう使い方をする可能性があるなら、第1戦で先発させるべきだった。行き当たりばったりで、気合いや根性で決めるのは、真っ当なリーダーの選択では無い。責任放棄だ。
 
 アスリートの最大の敵はケガだ。不運な大ケガもあるけれど、避けられるケガもある。横綱貴乃花が、前日に負った膝の大怪我をおして千秋楽の土俵に上がって勝ち、小泉首相の「感動した」という名言を呼んだけれど、あの時休んでいれば、大鵬を超える超名横綱になっていたのかもしれないと思って、今でも残念だ。(そもそも武双山のまわしが緩かったのがケガの原因で、相撲界はまわしの締め方の指導について反省するべきだと思っている。)今回のことで、もし田中が肩を痛めたら、星野監督は、どうやって責任をとるんだろう?

こんな記事もあった。

 大リーグの基準で言うと、1年間の酷使指数を1試合で超えているらしい。ましてや翌日の登板なんて問題外の外だろう。米国式が全て正しいとは全然、思わないけれど、投手の肩は消耗品と、大切にする思想は、少し学んだ方が良い。
 高校野球の春夏の甲子園日程も、そろそろ考え直すべきだと常々思っている。

 辛くても頑張るという、浪花節的な姿が日本野球の魅力だと、メディアが思っているとしたら、大きな間違いだ。今年の日本シリーズは、大味だった。選手が力と力の激突をするだけなら、大リーグの方が魅力的だ。様々な可能性を想定し、策を尽くして、勝ちに向かうのが日本野球の醍醐味だし、それに耐えうる能力を持つ選手が居るのが日本野球の強みだと思う。
 高い視聴率をとり、話題と感動を呼んだ2013年の日本シリーズが、日本野球下降の契機にならないことを祈りたい。

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2013年11月4日月曜日

JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配


 音楽ビジネスに関する記事が新聞の一面記事になることは珍しい。東京高裁が公正取引委員会の審決を取り消したことは、112日付けの朝日、読売、毎日朝刊で、トップ記事になっていた。著作権への関心が高まるのは嬉しいことだけれど、記事の内容には、首是できない部分も散見された。
 

 包括契約というのは、JASRACが、放送局と結んでいる契約の形態のことで、信託されている楽曲をまとめて許諾している仕組みだ。この契約が、他の著作権信託会社の参入障壁になっているというのがイーライセンス社の主張。公正取引委員会が行った審理で、認められなかったので、東京高裁で争われていた。
 私見だけれど、東京高裁の今回の判断は妥当だと思う。JASRACだけが放送使用料を受け取る状態は異常だ。新聞論調もJASRACを批判するものが多かった。
 ただ、JASRACを悪者に見立てて、事態を理解するのは、短絡的だとも思う。

■ポイントは、放送局側の協力姿勢

 放送局の音楽の使用については、本来、使用者である放送局が、許諾を受け、使用の詳細を報告する義務がある。包括契約は、個別の許諾もなく、また番組制作の予算管理上も煩雑にならず、スムーズな番組制作と音楽流通という面では、大きなメリットだ。そのメリットを享受しているのは放送局で、法律が変わり、著作権管理団体が複数になったのであれば、それに対応して、使用報告や許諾交渉を行うのは、当然の事。99%超と言われる放送使用におけるJASRACのシェアは、JASRACの責任もあるのだろうけれど、それ以上に放送局側の姿勢や楽曲管理の体制が生んでいる側面が強い。

  また、イーライセンス側の弁護士が「(包括契約は)料理で言えば『食べ放題のビュッフェだけ』みたいなもの。アラカルトが楽しめないのはおかしい」と批判している(112日付毎日新聞)けれど、かなり的外れな発言だと思う。TVやラジオにおける著作権使用の実態を知っているのだろうか?
 放送番組をつくる際に、商業化されたほとんどの楽曲が自由に使えることは、コンテンツ制作上は便利で、そこに個別の許諾を紛れ込ませようとしているように聞こえる。これまでの楽曲使用の自由は担保した上で、総合的に、生態系として成り立つ報酬体系を再構築するというのが、本件のポイントのはずだ。

JASRACの貢献と古い体質からの脱却の動き

 これまでの日本の音楽市場、コンテンツ産業におけるJASRACの貢献は、非常に大きい。アジアなど新興国と比較しても、日本みたいに楽曲の使用に対価を払うという思想が浸透している国は少ない。「欧米並み」という言葉は好きでは無いけれど、国際的に胸が張れる著作権管理体制を日本が持っていることはコンテンツ産業にとって大きな日本のアドバンテージで、JASRACが果たしてきた役割は大きい。
 以前より、「カスラック」と蔑称するネットユーザーは減ったようだけれど、全ての悪をJASRACに押しつけるような風潮を感じることはある。その種の発言は、勘違いも多く、濡れ衣を着せられているケースも散見する。JASRACの功績について、日本人はもっと評価するべきだと思う。

 一方で、JASRACが古い体質を引きづっているのも事実だ。JASRACの運営は作詞作曲者と音楽出版社によって行われるので、理事や古い会員には、高齢の作曲家先生も多い。発想や視点が守旧的になりやすいという構造を持っている。JASRACの設立は1939年。長い歴史があり、昔は「とれるところから、できるだけたくさん使用料を取って、クレームが出ない程度に、大まかな基準で分ける」というやり方も、やむを得なかったのだろうけれど、デジタル技術が進化した今、体質改善は求められている。

 僕が代表のBUGコーポレーションという会社もJASRAC正会員になって、10年以上になるけれど、不満はある。例えば、コンサートもカラオケも同じ「演奏権」という区分にして、25%という高い手数料を取っている。カラオケ店が乱立していた頃ならいざ知らず、今は通信カラオケの時代で、第一興商とエクシングの二社の寡占状態だ。片田舎のカラオケスナックでの使用料が徴収できなくてもよいから、手数料を10%以下に下げて欲しい。まして、コンサートにおいては自社が「著作権使用者」側になることも多く、自社のリスクで、所属アーティストがコンサートをやっているのに、JASRACに払う著作権使用料から25%の手数料が取られるのはあまりに理不尽。CDよりライブエンターテインメントの比重が高まっている昨今、手数料改定がされなければ、演奏権をJASRACから引き上げ、自己管理する音楽事務所が出てくるだろう。特に海外来日アーティストの問題提起がきっかけで、日本のコンサートにおける著作権使用料は増額している。高率の手数料は納得がいかない。
 とは言え、全体として俯瞰して見れば、日本のコンテンツ産業の発展に対して。JASRACの功罪は、功の方が圧倒的に大きいのが実情。近年は、理事長、会長も替わり、前述の古い体質からの脱却も始まっているように感じている。既得権益を守るのでは無く、日本のコンテンツ産業が活性化する方向での運営を期待したい。

■イーライセンスのやり方も褒められない

 一方、正義の味方、被害者という位置づけのイーライセンス社だけれど、僕は必ずしも支持できない。これまでやってきた「戦い方」が乱暴過ぎるからだ。自社に徴収、分配できる状態かどうかを判断せずに、放送局に対して、いきなり著作権使用料を求め、使用を差し止めるのは、やり過ぎだと思う。
 包括契約によって、倖田來未など一部アーティストの楽曲の契約が無くなったことを裁判所が重視したとの記事もあったけれど、あまりに乱暴な姿勢に、権利者が嫌気をさしたのかもしれない。プロデューサーやマネージャーの立場で、自分が関わるアーティストの大切な楽曲を、どこに信託するかという時に、今のままのイーライセンスは、率直に言って、選びづらい。礎のロジック自体は正しいと思うし、問題提起は十分に果たしているのだから、今後は、本当の意味で権利者と使用者の利益を、広い視野で追求する会社になって欲しいと思う。

 実際、「第2JASRAC」と呼ばれる中には、素晴らしい会社もある。僕は自分が関わる作品は原則的にJRC(ジャパン・ライツ・クリアランス)に信託することにしている。JRCは坂本龍一や、L’ArcenCiel、スピッツ、THE BOOMなどのたくさんのヒット曲も管理している。荒川社長はITサービスにも造詣が深く、USTREAMやニコニコ動画などの新しいITサービスともいち早く交渉の場を持ち、権利者の利益を守りながら、新サービスの発展にも寄与するというスタンスで活動している。前述したカラオケなどの演奏権もJRCに管理して欲しいのだけれど、「完全な状態で徴収分配する準備ができてない」という理由で、慎重に構えているようだ。良い意味でJASRACと競い合うような存在になって欲しいし、一部のITサービスなどにおいては、既になり始めている。

■キーワードは「デジタル技術を活用した、ガラス張りの徴収分配」

 実は、本件の問題点、放送局の著作権使用料の包括契約については、解決の道筋は見えている。キーワードは「デジタル技術を活用したガラス張りの徴収分配」。2009年設立のCDC(著作権情報集中処理機構)を中心に、NTTのオーディオフィンガープリント技術を活用して、放送で使われた楽曲をサーバーに貯めて、クローリングを行って、全曲を割り出してのデータ制作が始まっている。CDCを中心に、NTTDATAなどが協力をして、全曲データを作成、分配データには使用されている。近年は精度もあがり、データ量も増え、かなりの確率で、楽曲が特定できる。放送局からの使用報告が簡単になり、正確な使用データができるのだから、一石二鳥だ。

■著作権管理における「競争」とは何か?

 この方式を徴収にも適用すれば、信託団体の差違は問題では無くなる。問題は、使用料の交渉は、相対で、交渉力で決まるということだ。一部の新聞記事には「この判決をきっかけに競争が起きることが期待できる」という、「競争=善」という論理の、思考停止的な内容があって、残念だった。どんな土俵で、何について誰が競争するか語らなければ無意味だ。放送局での楽曲使用料は、公的は話し合いで決められるのが、適切だと思う。信託団体の交渉力では無く、権利者側と放送局者側が第三者も交えて、年間の使用料総額を決め、分配については、全量データを基に、各団体が行うというルールにできれば、権利者は、とりっぱぐれを心配せずに、著作権信託会社を選ぶことができる。


 著作権の徴収と分配は、コンテンツビジネスの礎だ。今回の東京高裁の判断が、音楽ビジネス活性化の方向で活かされることを期待したい。


<イベント告知>
書籍『世界を変える80年代生まれの起業家』出版記念イベントを11月11日(月)渋谷iCon Loungeで行います。ゲストは、安藤美冬さん。10人の起業家による3分ピッチ有。懇親会も行いますので、是非、いらしてください!前売チケットは、tixeeにて。