2013年10月20日日曜日

米国音楽市場で始まっている変化の芽

  最近、ブログをサボりすぎだったので、プチ反省して、少なくとも週1回くらいは、1週間のニュースを振り返って、短くても何か書こうと思う。というのも、昨年11月から『音楽ビジネス最前線』というメールマガジンを毎週、監修していて、ニュースキュレーションを毎週やっている。1週間のニュースの中で、音楽ビジネスに関係のありそうなニュースを選んで、簡単な解説付きで紹介しているのだ。毎週末にその作業をやる習慣はできているので、その時に一番気になった記事について、ブログに書くのなら続けられる気がしている。(メルマガ購読もヨロシクです。

 今日は、海外音楽ITサービス事情をわかりやすく紹介してくれて、いつも助かっているジェイコウガミ君の「Alldigital music」から、この話題を。


 「Nielsen SoundScan」による、2013年度第3四半期米国音楽売上レポートは非常に興味深いものだ。
 概要は、

<デジタル・アルバム売上>
・前年同期2830万ユニットから5%減少
・カタログ(旧作)の売上は前年同期比1.4%減少し、4240万ユニット。一方新作リリースは6.6%増加で4530万ユニットと好調。
・1-9月までの9ヶ月間でみると6.1%減少
<パッケージ売上>
・CD売上は12.8%減少し、1億1310万ユニット
・アナログレコードのアルバム売上は30%増加し、410万ユニット

 この変化の意味を僕は、米国音楽配信の主役が、iTunes StoreからSpotifyへと変わるの兆しだと捉えている。金額の減少は、「主役の変化」の時期の過渡的な現象で、必ずしも悲観すべき状況ではないと思う。音楽配信が楽曲単位のダウンロード型から、ストリーミングによる月額課金(サブスクリプション)型に変わるだろう。
 関係者の話によると、Spotifyの有料会員は、確実に伸びていて、既に800万人を超えて、早ければ年内にも1000万人に到達する模様だ。特に米国での増加が著しいそうだ。日本法人も着々と準備を進めているようなので、サービス開始を心から期待したい。

もちろん、このままアップルが黙っているとは思えない。再生プレイヤーとしてのiTunes、配信プラットフォームとしてのiTunes Storeの存在は米国では圧倒的だ。iCloudに加えてMusic Matchというパーソナルクラウドの機能も提供している。既にiTunesをベースに楽曲を購入して、ライブラリーを持っているユーザーは、アップルのエコシステムから離れるのは強い抵抗感があるだろう。新サービスiTunes Radioで、新たな音楽のリコメンド機能も強化されている。
 ただ、音楽配信サービスにおけるDL型からストリーミング型への移行という大きなトレンドは、環境の変化による必然だというのが僕の基本的な認識だ。
 いずれにしても、米国音楽市場は、世界をリードする存在だ。この変化に注目していきたい。

 パッケージ売上についてもCD売上は減少しているけれど、アナログが増加していることにも着目したい。ストリーミングが主流になる時代のパッケージの役割はこれまで以上に、コレクションとしての価値になる。アーティストやレーベルがパッケージの在り方、見せ方を工夫すれば、音楽ファンへの興味喚起は可能なはずだ。

Austinの老舗CD店Waterloo
 最近の米国では、パッケージの価格が安値一辺倒から、少し戻っているようだ。2006年に大好きなニューヨークの街からタワーレコードが無くなった時は、本当にショックだった。ウォールマートを初めとするスーパーマーケットが主なCD販売のチャネルになり、アルバムが9ドル90セントで売られ、客寄せのツールとなったと聞いていた。
 でも、今春に行ったオースティンの老舗CD店では、ほとんどのCD12ドル〜15ドル、アナログレコードの主価格帯は20ドル以上だった。今頃は、CDアルバムが8ドルくらいになっているのかなと思っていたので、驚いた。米国でも、パッケージの価値は再認識されているような気がした。

 もう一つ、この記事で着目したのは、レーベルのシェアだ。「レコード会社のマーケット・シェアでは、ユニバーサルレコードが38.3%、ソニー・ミュージックが29.1%、ワーナーミュージックが19.7%」とある。メジャー3社で9割のシェアだ。
 一方、日本は34%だ。ここに日本の音楽市場の特殊性が表れている。エイベックス、ビクター、キング、トイズファクトリー、ポニーキャニオンなどは、グローバル視点では、ドメスティックインディーズレーベルとなる。
 米国も以前は、メジャー比率は50%から70%を行き来していると言われていた。元気なインディーズレーベルが売上を伸ばして成功するとメジャーレーベルに売却するというのが、米国音楽市場のシステムの一つだったらしい。9割になった現状は、どうなんだろう?そもそもパッケージと配信という、原盤からの売上をベースにシェアを語ることが無意味な時代になっているのかも知れない。

 また、Spotifyについては、大物ミュージシャンからの反対論が話題を呼んでいる。最近も、こんな記事があった。


 トムヨークの時も同様だったけれど、この種の批判は、僕からは論理的に成立していないように思える。Spotifyは、楽曲の著作権使用料とは別に、売上の5〜6割をレーベルとアーティストに支払っている。新人アーティスへの支払が少なすぎるというのは、音楽配信サービスに対する期待が過剰過ぎる。これまでレコード会社が担っていた、新しい才能への投資をIT企業に期待するのは、お門違いではないか?
 それだけ、Spotifyの存在感が欧米では大きくなっていて、脅威を覚えているのかも知れない。KickstartaterIndiegogoなどのクラウドファンドが、その役割を受け持っているように日本に居る僕からは見えるのだけれど。

 そんなことを思う、201310from東京。ともかくは、欧米に比べて"周回遅れ"を走っている日本の音楽配信状況が、前に進むことを心から願う。

2013年10月13日日曜日

違法ダウンロード罰則化施行から1年。善悪論では無くて、そろそろ「次のこと」を。

 昨年施行された改正著作権法、違法DLの罰則化から一年経って、いくつかの記事が出ていた。ネットでの論調は、改正自体に批判的なものが多かったように思う。
 産経デジタルの記事は、こんな見出しだけれど、2012年の日本の音楽パッケージ売上が、前年比10%増になっていることは書かれていない、事実認識に問題のある記事だ。ガラケーからスマフォへの移行で「着うた」市場が崩壊したマイナスはあるけれど、インターネット音楽配信とパッケージ売上は上昇している。編集委員だから言う訳では無いけれど、新聞社のサイトなのだから、せめて「デジタルコンテンツ白書」くらい目を通してから記事を書いて欲しい。


 もちろん、音楽売上が微増したのが、違法DL罰則化の効果とは、僕は全然思っていない。レコード業界側も、法律改正の大義名分として、違法DLが音楽売上にマイナスだったという主張は掲げても、法律が変われば音楽売上が大きく回復するとは思っていなかっただろう。
 ただ、従来型の「複製」を基本概念とする著作権において、インターネット上でデジタルコピーが広まることは、明らかな「悪」で、その動きにアンチテーゼを述べるのは、立場としては、当然の態度ではある。

 この記事にあるレコード協会の広報部長のコメントは、理知的な内容だ。守旧派の代表のように位置づけられるレコード協会だけれど、この見解は、真っ当に感じた。立場上、言えないことはあるのだろうけれど、事態を冷静に受け止めてのコメントには好感が持てる。

 違法DL刑罰化の効果に関する分析は、シンプルで、ACCS(コンピューターソフトウエア著作権協会)が行った調査を見れば明らかだ。
 2012101日を境に、Winnyなどのフェイル共有ソフトへのアクセスが半数程度に大幅減しているというものだ。抑止効果はあったのだと思う。問題は、これを、「違法コピーする悪い奴が減った」プラスと考えるか、「ユーザーが音楽と接する機会が減った」マイナスと捉えるかのポイントだ。僕自身は、音楽ビジネスに関わる者の一人として、デメリットを心配する気持ちの方が強い。

 それから、もう一つ大事なことは、法律の運用の監視だと思っている。僕が知る限り、この違法DL刑罰化が拡大解釈されて、ユーザーが無闇に捕まるという事態にはなっていない。(もし、そういう事件が起きているなら教えてください!)
 違法DL罰則化を必要以上に(そう、風営法のクラブ摘発のように)使うような動きは、絶対に止めなければならない。法律の運用状況チェックするのは重要だ。濫用につながるようなら、運用ガイドラインの再設定などは必要になってくるだろう。

 また、上記の記事でMIAU(インターネットユーザー協会)の理事の発言も載っているけれど、時代遅れな感じがして残念だ。論理的には通っていて、ごもっともなのだけれど、1年前の「敵」を悪役に仕立てたいという気持が透けて見える気がする。「水に流せ」とは言わないけれど、インターネットを先駆的に啓蒙するのだとしたら、「複製権」ベースの著作権での善悪論を展開するのでは無く、建設的な提案が聞きたい。
 あらゆるコンテンツがクラウド化されてアクセスする形になる近い未来が見えている今、「アクセス権」とでも呼ぶべき著作権の在り方をどうするのか、未来型の議論をするべき時期だ。

 日本では、音楽パッケージは、少なくとも暫くの間は残る。
 購入の目的は音楽を聴くためだけではなくて、コレクションだったり、アーティストとの関係性の証だったり、CDを購入することで満足感を得るユーザーが、日本の一定数いることは間違いない。
 一方で、音楽を聴く方法は、大きく変わる。アップル社がつくったiTunesを中心としたエコシステムは秀逸な仕組みだったけれど、既に世界的にも過渡的な存在として位置づけられている。各自のデバイスでファイルを持つことは不要になるからだ。
 クラウド管理でのストリーミングというスタイルの中で、ユーザーにどんな利便性や出会いを提供するのかが、今の音楽サービスの課題だし、音楽ビジネスにおける最関心事なはずだ。

 そんな時代に違法ダウンロード罰則化の法律への是非にエネルギーを注いでいる場合ではないのではないか?日本社会にとって無駄な労力だと思う。
 どんな時代になってもハッキングを楽しみにしたり、法律の裏をかいて商売する業者は居なくならない。罰則もルールも必要だけれど、大筋としては、次世代の取り組みにエネルギーを注ぐべきだろう。

 音楽ファンが音楽を楽しみ、アーティストが潤い、新しい才能が出てくる生態系を、新たな環境でどうやってつくっていくのか、そのことをみんなで議論したい。

 若手起業家との対談集を出版したのも、そんな問題意識からだ。時代の変わり目にどういう挑戦をするのかのヒントを得る材料として世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)、活用してもらえると嬉しい。

2013年10月7日月曜日

『世界を変える80年代生まれの起業家〜起業という選択』を出版した理由


 僕にとっては4冊目となる書籍は、80年代生まれの起業家との対談集。

 若者の職業選択について語るなんて、分不相応なテーマ設定だけれど、強い問題意識を持って取り組んだつもり。

 きっかけはいくつある。
 元々は、音楽プロデューサーとして、「何故、日本から音楽ITベンチャーが出てこないんだろう?」という疑問があった。これからの音楽ビジネスを活性化するのはITサービスだ。欧米では、若い世代が面白い音楽サービスを立ち上げて、にぎやかなのに、何故日本では無いのか?残念に思っていた。

 ところが、ハッピードラゴンでふくりゅう君と二人でsensorというイベントを始めて、自分の認識が間違っていることを知った。音楽とITに関するトーク+懇親会イベントには、アントレプレナー(志望者)が観客として来てくれて、出逢いがあった。日本でも音楽ITサービスをやろうとしている若者は居る。ただ、音楽業界とまったく接点が無いから知らないのだった。猛烈に反省したし、すごく期待を持った。少しでもここを繋ぐ役割をしたいと思った。

 出版してくれたスペースシャワーネットワークの役員に、その話をしたら、書籍化しようという話をいただけた。音楽専門チャンネルスペースシャワーTVは、今年の12月に開局25周年を迎えるのだけれど、「昔は、面白い若い奴がMusic Videoをつくってた。今の世代はは、ITサービスやってるんじゃないかな?」というその方の言葉に、我が意を得たりと思った。

 それから、近年、大学などでの講義を頼まれる機会が出てきて、学生と話す機会が増えてきて、就職活動が、「シューカツ」と呼ぶ以外は、30年前から何も変わっていないことを知った。正直、驚愕した。

 80年代半ばに就職した同世代の友人達は、超売り手市場で、一流大学出身者だと接待されるみたいに、囲われて就職していた。当時の僕は「一流企業に就職する生き方は安定するけれど、魅力的で無い」と思って、自分で音楽の仕事を始めてしまったけれど、その後、10年も経たないうちに、銀行や一部上場企業も平気で潰れる時代が来て、「安定」ですら無くなった。

 高度成長時代のプロトタイプ的な「企業戦士」は、今の日本企業が求める人材では無くなっている筈なのに、新卒一括採用に仕組みは、ほとんど何も変わっていない。おそらくは、前例踏襲の惰性のたまものなのだろう。日本経済の活力を下げている一因に違いない。僕は、大企業の人事とは無関係な仕事だけれど、そこにも一石を投じたくなった。安易な起業は、もちろん良くないけれど、安易な就職と採用もどうなのよ?と。

 紹介する起業家に共通するのはポジティブな姿勢。独自のアイデアで成功に向かって邁進している。グローバルは当たり前。ソーシャルメディアもあるのが前提で、過剰な期待は持っていない。自然体で構えている。
 音楽業界でだけでは無く、日本社会が元気になるには、彼らの力が必要だと思う。紹介した全部の会社が成功するとは思わない。おそらくは経験するだろう失敗も含めて、価値があると感じている。
 僕自身、ITベンチャーのサービスと、コンテンツ業界、メディア業界とのハブのような役割を、少しずつでも担っていきたいと、微力ながら思っている。

<本書に登場する起業家>

creww 伊地知天 ...スタートアップ­起業家を支援!
tixee 松田晋之介 ...新世代のチケットサービスに挑戦!
Beatrobo浅枝大志 ...ロボット型ガジェットで世界­を席巻!
nana 文原明臣 ...スマホをマイクに、世界をつなぐ音楽を!
フリクル海保けんたろー ...ミュージシャン自らバンド支援!
Fogg関根 佑介...人気スマホアプリの企画­者から起業家へ!
TUNECORE 野田 威一郎 ... 世界的音楽配信サービスを日本で展開!
ワンプルーフ 平山和泉 ...eコマース支援の女神降臨!
Wondershake鈴木 仁士 ...ネットショッピングエンターテイメント!
クレオフーガ西尾周一郎 ...アマチュア作曲家向SNSを運営






 そんな思いで、まとめた本です。拙いところも多々ありますが、是非、読んでみてください。ご批判も受けたいと思います

 11月11日(月)に出版記念のイベントを計画中。決まり次第、詳細を発表します!

 ちなみに、ティザー映像は、尊敬するTOFUcreativeの大森さんに、帯の推薦文は、起業家と同世代の安藤美冬さんにお願いしました。ご協力をありがとうございました!