2012年3月31日土曜日

編集者に著作隣接権を持たせたい理由を情緒的に説明してみる。〜『編集進化論』を読んで〜


 最近、出版社が原版権という著作隣接権を法制化しようという動きがある。


 一部の作家からは、懸念の声も上がっているようだ。このまとめからを読むと、漫画家さんも出版社側も知識、情報が足らずに混乱しているようだ。この種の話は、疑心暗鬼な人が多いとなかなか着地できない。


 結論から言うと、僕は法制化に基本的に賛成だ。出版社や編集者の役割、貢献に対して、著作隣接権的な権利を持つのは当然だと思う。出版物は、音楽以上に多岐のジャンルがあり、分野ごとにビジネススキームや業界慣習も違うから、一律でルールにするのは難しいところもあるだろうけれど、音楽ビジネスをしている立場から見ると、これまで無かったのが不思議に感じられる。

 音楽業界には、作詞作曲家やアーティストの権利とは別に、通称、原盤権と呼ぶ、レコーディングに携わり、その費用を負担した者に著作隣接権という権利が認められている。楽曲の著作権についても人格権と財産権を振り分けて収益をシェアしたり、許諾を信託したりと様々な仕組みと慣習がある。デジタル時代に合わせた修正は必要だけれど、基本的な考え方はできているし、その運用もスマートで、率直に言って、出版業界よりは洗練されていると思う。
 ここ数年、電子書籍に関するセミナーや勉強会に呼ばれてお話しする機会があるけれど、音楽業界で長年仕事している感覚だと、隣接権無しでビジネスが成立してきたことに驚いてしまう。
 作品そのものに権利を求めなくても、印刷して流通して書店に並べるという機能の影響力が大きくて、そこを押さえておけば大きな問題は起きなかったのだろうと想像する。書籍の問屋「取次」が強い力を持っているという話は聞くし、印刷、製本なども資金力が必要だしね。
 近年の電子書籍の出現が、いわゆる「中抜き」という現象をかいま見せていて、慌てて、対応しているというのが実際のところなのだろう。

 僕は出版社の既得権益については、是々非々でクールに考えれば良いと思っている。インターネットが広まれば、個人と個人だけの取引に集約されるというのは幻想だ。資本力の重要性や既得権は形を変えるだろうけれど、簡単に無くなる訳じゃ無い。ユーザー嗜好の変化による市場の淘汰や政府の規制や様々な環境変化の中で、各出版社が企業として生き残り策を考えていくだろう。

 僕がこの機会に強調したいのは、(広義の)編集者の役割の重要性だ。ジャンルによっても違うだろうし、作家のタイプや個々の作品の成り立ちによって、果たす範疇は、かなり多様だけれど、良い作品になるかどうか、書籍が売れるかどうかには、編集者の職能の重要性は非常に高いと思う。

  『編集進化論─editするのは誰か?』(フィルムアート社)を読んで、その思いが強くなった。

編集は「と」の仕事。「と」はVSにもなるし、andにもなるし。withにもなるし、orにもなる。いろいろな組み合わせで二つの文化をつき合わせられる。

という一文が素敵だ。

 仲俣暁生さんは著者として『再起動せよと雑誌はいう』(京阪神Lマガジン)も書かれている。この本も素晴らしい。雑誌への愛情とクールで分析的な視線が両立していて感銘した。僕らスタッフは、この両立がとても肝要なのだ。

 もうお気づきかもしれないけれど、僕が、編集者の権利に熱くなるのは、自分達が音楽に於いて果たしている役割と相似形に見えるからだ。アーティストが成功するかどうかは、マネジャーやプロデューサー、エンジニアなどスタッフとの出会いが非常に大きい。(このことについては、ミュージシャンよ大志を抱け!〜音楽関連ビジネス書ブックレビュー〜」をご覧下さい。)
 
 そして、音楽業界でも、もうレコード会社は要らない、と「中抜き」現象が起こりつつあるように言われているけれど、僕はちょっと違う見方をしている。
 田坂広志さんが著書『未来を予見する5つの法則』(光文社)で定義してるように「ニューミドルマン」が重要だ。
 
 従来の中間業者が「企業」の方を向いて「販売代理」のビジネスモデルで仕事をしていたのに対し、ニューミドルマンは、「顧客」の方を見て「購買代理」の仕事するのです。

 これまでの仕組みとスキルにしがみつくのでは無く、新しい環境に適応した形で作品とユーザーを結びつける「ニューミドルマン」の職能が、むしろ必要性が増している気がする。

 例えば、レコード会社の営業マン。CDショップに足繁く通ってバイヤーと仲良くなり、商品本部のキーバーソンとお酒を飲んで多くの注文数を取ってもらい、レコード会社とCD店のバックマージンの調整が得意な人は、確かにもう必要ない。でも同じ営業でも、店頭を通じて、リアルに市場を見ていた人は、新しい環境でもできることがある筈だ。ユーザーへのリコメンド力は、情報が拡散するソーシャルメデイア時代には、より重要になっている。必ずや「ニューミドルマン」として果たすべき仕事がある。
 出版社も同様だと思う。新しい時代にあった「ニューミドルマン」たる編集者は、むしろその重要性を増している。

 僕は昨春に初めて著書を刊行させてもらった。ダイヤモンド社にプレゼンテーションに行った時は、レコード会社に初めて行くときのバンドマンの気持を疑似体験をしたみたいだった。当初の出版予定日が延期になった時にも、アーティストの気持ちが少しわかった気がした。申し訳なさそうな態度で、延期する事情を正確に伝えながら、ポジティブな側面にできるだけ目を向かせるような話し方をしてくれる編集者が本当にありがたかった。そして「これは、普段、俺がやっている仕事だ」と実感した。
 その時に思い出したのは、成功するアーティストは、必ずスタッフへの感謝の気持を持っているということ。長年積み上げてきたスタッフの苦労を簡単に裏切る人もいるけれど、そういう音楽家は、音楽の世界から離れていくことになる。

 作家への愛情と市場への計算を両立させ、作品性を損なわずにユーザーと繋ぐには、プロフェッショナルなスキルと強い情熱が必要だ。出版ビジネスにおける著作隣接権を考えるときに、編集者の役割の再評価と再定義がされることを期待して、「隣の村」から暖かく見守っていたい。

 ビジネス面での分析を期待した人にはごめんなさい。本稿は情緒的な話です。エンターテインメントは、関わる人たちの心意気も重要なんだよ^^

2012年3月17日土曜日

最近観た映画『マリリン7日間の恋』『ももへの手紙』『監督失格』『風にそよぐ草』『HUBBLE』『スリ』『ラルジャン』

最近は、「ライフログ」って言葉をあまり聞かなくなった気がする。IT用語は流行廃りがあるからね。表現はともかく、ライフログ的に、自分の行動記録は、支障が無い範囲で公開して、記録に残していこうと思うようになった。ソーシャルメディアが情報のプラットフォームになる時代に生きていて、コンテンツに関わる仕事をしているし、去年はソーシャルグラフをテーマにした本も出したし、その責任もあるかなと。
読書記録は、メディアマーカーにまとめている。映画は、せっかくブログを始めたので、定期的にまとめて書こうと思っているのだけれど、気付くと1ヶ月以上経って、旬なネタじゃなくなってるな。と反省しつつ、最近観た映画。試写会で観させていただくことも多いので、タイミング良く紹介するようにします。

『マリリン7日間の恋』
今年は、マリリンモンローの没後50周年。イベントなどもいくつか行われるマリリンブームの中、アニバーサリーな映画。『王子と踊り子』撮影中のエビソード。映画業界に憧れて、見習いで現場にいた青年とマリリンとの淡い交流の話。実話ベースらしい。ミシェル・ウィリアムズには、興味なかったけど、この演技は良いね。セクシーで可愛らしい。アカデミー主演女優賞は、メリルストリープだったけど、惜しかったね。構成、編集のテンポ感も良くて、飽きさせない。マリリンファンじゃ無くても楽しめる。お薦めです。3月24日公開。    

『ももへの手紙』
アニメーション(animation)という英語が、日本語からの逆輸入でアニメ(anime)として広まり、日本のアニメを指す言葉として世界中で使われるようになって久しい。その代表の一つは、なんと言ってもジブリ映画だろうけれど、プロダクションIGがつくったこの作品は、そんな日本アニメの様式に則った映画だと思った。
主人公は11歳の少女。父親を失って、母と一緒に田舎の島に移り住んでくる。妖怪達との心の交流があり。と、既視感のあるような、いかにも日本アニメのフォーマット。物語の展開自体に、心踊らされるところは、正直無いけれど、すべてにおいてクオリティは高い。ジブリとの違いは、「作家性」の有無だろう。ジブリは、どんなに様式を踏まえていても、それを凌駕する(あるいは、はみ出る)作家の表現がある。そういう意味で、この作品は「四隅がきちんしたお行儀の良い」映画だ。日本アニメの様式を踏まえた良質の映画が、観客からどう評価されるのかに、興味がある。4月21日公開。興行成績が気になるな。

『風にそよぐ草』

神保町の岩波ホールに、ものすごく久しぶりに行った気がする。『ヒロシマモナムール』も撮った巨匠の作品。難解という訳じゃ無いけど、ちょっとヘンテコなストーリー。拾った財布の持ち主に恋する老人が、ストーカー的な行為をはじめるって、どうよ?
でも、『アメリ』に通じるフランスらしいエスプリは感じたし、映像は綺麗で、嫌な感じはしない。何故か清々しい。不思議な映画だった。


『監督失格』
評判が良いけれど、見逃していたので、下高井戸の名画座的な映画館で一人で観たのだけれど。観終わった後に何ともいえない気持ちが残る。涙は出るけれど、悲しいとか感動とかいう言葉は違う。AV女優と監督の恋愛と、その後の交流に感情移入はしにくい。でも、愛とか、幸福とか、人生とか、親子とか、色んな事に思いを馳せることになるから、心の琴線をひっかかれるということは、良い映画なんだよね。「(エンディング曲の)矢野顕子は素晴らしいとか」「やっぱり、親孝行しなくちゃ」とか、脈略ない独り言を言いながら、下高井戸シネマを後にした。


『HUBBLE 3D 〜ハッブル宇宙望遠鏡〜 』

2年前くらいから、3D映画が広まっているけれど、正直言うと、苦手だ。眼に負担が掛かって、頭痛になりそうだし。眼鏡も邪魔。エンターテインメントビジネスに携わる者として、新技術は大切だし、映画業界の売上にも貢献するのだろうから、できるだけ批判しないようにしているけれど、1ユーザーとしては、少なくとも今の技術の3D映画が、あまり広まらないことを密かに祈っている。
そもそも、小説でも音楽でも映画でも、ヒトの想像力を刺激するのが素晴らしい作品だと思っているので、必然性も無く、3Dを導入している映画には辟易してしまう。
この映画の3Dには、明らかに必然性があった。しかもiMaxシアターの巨大スクリーンの3D。地上600kmの軌道上を廻る天体望遠鏡の修理をする宇宙飛行士のドキュメンタリー。まさに衛星の中にいる気分になり、宇宙の神秘や人間の小ささを実感させられた。星が好きな人には、激オススメです。

『スリ』 『ラルジャン』
10代の頃は、名画座と言われる映画館によく通った。二本立て、三本立てが普通で、名作を上映する映画館が、東京にはたくさんあったけど、随分減ったよね。VHS〜DVDが普及して、レンタルして自宅で観られるようになったからだろうけど。そんな中で、早稲田松竹は独自のキュレーションで頑張っていると思う。ブレッソン監督特集をやっていたので、観に行った。
フランス映画の巨匠。ヌーベルバーグに影響を与えた人と僕は理解しているのだけれど、違っていたら教えてください。60年代のモノクロと80年代の映画を続けて観ることができたので、面白かった。作風ってあるんだなって、当たり前のことを思ったり。主人公もスリとか偽札とか犯罪者だしね。


 以上、7本。
 それにしても、映画って一言でいっても、いろんなジャンル、カテゴリーがあるね。今後も雑食でいこうと思います。

2012年3月3日土曜日

音楽とクラウドについて話してきました。〜日本レコード協会セミナー報告〜



先日、日本レコード協会のセミナー講師として、クラウドと音楽についてお話ししてきた。レコード会社のスタッフ向けのクローズドな会だったので、自分の備忘も兼ねて、概略を記録しておきたい。

日 時:平成 24 年 2 月 28 日(火)14:00~16:00
場 所:東京ウィメンズプラザ ホール(1F)

通常よりかなり多い200人近い申し込みがあったそうで、関係者も含めて、客席は8割位埋まっていた。昨年、ビジネス書を出版してからは、人前でお話するのも慣れてきたつもりだったけど、同業者が沢山集まって、しかも知人もいつつ、知らない人も沢山という、HomeだかAwayだか、よくわからない環境で、久しぶりに緊張した。

【テーマ】クラウドサービスが今後の音楽ビジネスに与える影響と対応策について
【ajenda】
  1. [山口講演] クラウドとは何か、クラウド型音楽サービスの紹介

全体のテーマは、協会から依頼されたままにした。自分一人で二時間という持ち時間を充実させるのは難しいと思い、ゲストをお願いした。自分の立ち位置を、来場者と同業の音楽業界視点にすることにしたので、異業種が良いと思い、NTTの中でエンタメコンテンツに詳しい伊能美和子さんをお招きした。
最初に20分一人で話した。自己紹介をした後、講師依頼を受けて驚いたのは二つの理由で、自分のような者がレコ協のセミナーで話すなんて恐れ多いということと、今頃クラウドテーマって3年遅いっていうことと二点だ。と謙虚なんだか辛口なんだかわからない導入にしたけれど、どうだったのかしら?
その後、クラウドという概念の説明を、すべてがオンライン上にあるのを雲に喩えたのはグーグルのCEOだという様な話も含めて、ごく簡単にして、常時接続環境とセットな事、「クラウド」と「ソーシャル化」がインターネットの2大キーワードだと説明した。すべての産業が再定義される時代に音楽だけが例外なのはあり得ず、むしろ音楽は時代の先端をいくべきだ、と。後半は、JRC荒川社長から許可をいただいた受け売りで、クラウド型のストリーミングサービスを3種に分け
1)オンラインデュークボックス:Spotify型
2)リコメンデッドラジオ:PANDORA型
3)ストレイジ・個人ロッカー:iCloud型
それぞれの、海外含めた現状を紹介した。
3については、著作権の解釈が悩ましい。ユーザー的には自分が買った音楽を自分のクラウドに置くのは自由にやれないのは納得できないだろう。一方で権利者側から見ると、今のiMatchのシステムだと、違法で入手した音源をクラウドに上げると高音質で手に入るという一種の「ロンダリング」機能にもなっているので、容認しにくい。
本質的には、著作権の私的複製の考え方で対応するのに無理があるので、アクセス権的な考え方で法律や慣習を作り直すしかないのだけれど、というような問題提起もして、一休み。

2. [伊能さん講演] 通信事業者からみたクラウドビジネス、音楽と技術の連携


さすがにプレゼン慣れしていて、わかりやすい説明だったと思う。通信事業者の立場からネットワークや技術などクラウドに関することをまとめてくれていた。
また、受講者全員に、NTTの副社長の方が書かれた、クラウドの教科書みたいな本『クラウドが変える世界~企業経営と社会システムの新潮流~』(宇治 則孝著/日本経済新聞出版社)をプレゼントしてくれたのもありがかった。

3. [対談部分] 新時代のクラウドサービスについて


対談部分は、トッピクスを7つ選んで、会場も巻き込んでのトークにしたかったのだけれど、実際は、客席からの意見は少なかった。
この辺の話は、またする機会もあると思うので、テーマを並べておくことにする。
「ユーザー目線で、ライフスタイルの提案と共に新しい需要を喚起するように頑張ろう!」というような方向で話をしたつもり。
質問があればお受けします。
  テーマ1 所有から利用(シェア)へ
  テーマ2 音楽を聴く環境の劣化?
  テーマ3 クラウドで広がる新たなサービス
  テーマ4 リコメンドにつながる新技術~ログからコンテクストへ~
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  テーマ6 グローバルビジネスにつながるクラウドメディア
  テーマ7 国産音楽クラウドの必要性

配付資料には、僕が書かせて貰った『デジタルコンテンツ白書2011』音楽部分のコピーもつけた。音楽業界の活性化のために少しでも役に立てたのなら嬉しいのだけれど、、。
色んな方と近未来の音楽ビジネスについて話す場を定期的に持ちたいと思ってるので、近々何か始めようかな。

関連投稿:日本の音楽配信事情2011〜ジャーナリストや評論家に音楽ビジネスの間違った認識が多すぎる!