2011年8月12日金曜日

フジテレビ「韓流偏向」問題の整理 ~テレビ局と東電の共通点〜

思ったより大きな騒動になっている、フジテレビ「韓流偏向放送」に対する抗議の問題。インターネットでは、野次馬もたくさんいて、いわゆる「祭り」という状態なのかもしれないけれど、あまりにも無茶苦茶な意見を散見したので、整理したいと思う。

 俳優の高岡蒼甫さんが、ツイッターでフジテレビが韓流ドラマばかり放送していることを批判したことがきっかけで、反フジテレビの声がネット上で巻き起こった。

●フジテレビが韓国に肩入れしているというのは「トンデモ」な妄想
 
 フジテレビが局として、韓国に肩入れしていると言うのは、「トンデモ」本のような妄想だ。日韓戦を韓日戦と言ったとか、どうでもいい話にしか僕には聞こえない。フジテレビの経営陣から、「キムチ鍋の人気を煽れ」と、製作現場に指示が出ていると本気で思っている人が居るとしたら、その方が信じられない。UFOは地球にきていて、異星人が、既にたくさん住んでいるというレベルの妄想。
 東海テレビの番組で、岩手県農家を侮辱したテロップが流れたのは、酷いことだと思うけれど、あくまで単純ミスだし(そんな品性の低いディレクターがつくっている番組は下劣だという判断はしても良いと思うけど)系列局というだけで、フジテレビ批判に結びつけるのも、坊主が憎くけりゃ袈裟まで~的で、強引だ。フジテレビでは放送されていない番組だし、基本的に関係ない。

●問題は視聴率至上主義の経営方針

 今回の騒動で確認しなければならないと思うのは、テレビ局の構造的な状況だと思う。高い視聴率を取ることに偏った体質が長く続いて、テレビ局の編成方針と、視聴者のマインドとがずれているのだと思う。
 言うまでも無いけれど、テレビ局の主な収入源であるCM収入は、企業広告費でまかなわれている。番組をまるごと提供するような形もあるけれど、スポットと言われるTVCMが大きい。このスポットの価格が、局の平均視聴率で決まるので、どの時間帯も視聴率の数字を落としたくない。
 おそらく平日の午後帯に視聴率をとるのが難しくなってきていて、熱い固定ファンの居る韓流ドラマで、下支えをしたいのでは無いか?DVDの権利の一部を持ったりとかしているかもしれないけれど、TV局にとっては、放送外収入よりも視聴率の方がずっと優先順位が高い。

 近年の番組作りは、この視聴率を取ることを最優先に行われている。出演者の発言をテロップにしたり、CMの直前に煽って、CM明けに同じところから放送するなど、チャンネルを変えられて、一瞬でも視聴率が下がることを避けるために編み出された手法だ。番組が面白いかどうかとか、視聴者が興味を持っているかどうかとは関係が無い。(むしろ、真剣に観ている人は不快に思うよね?)そもそも視聴率は、番組に関する指標の一つに過ぎなかったはずだ。
 しかも、データとしては不完全だ。以前、視聴率の機械をとりつけている家に不正を働きかけたテレビプロデューサーの事件があったけれど、デジタル技術が発達した時代に、テレビ受信機単位でサンプルデータを集めているのは、信じがたい。他にいくらでも方法はあるはずだ。こんな誤差がある方法で、番組の終了や継続が決まっているのは、滑稽ですらある。日本人は、できた仕組みを洗練して高めていくのは得意だから、大手広告代理店にも局にもスポンサー企業にも都合が良くて、止められないのだろうけれど、一番大切な視聴者の意向が反映された数字で無くなってしまったことを見落としている。

●地上波テレビ局は許認可で守られた絶大な権力という意味で電力会社と似ている

 TVについて考えるときに忘れてならないのは、テレビ局は、政府の許認可で守られているということだ。当たり前と思ってしまっているけれど、どんなにお金があっても、地上波のテレビ局をつくることはできない。以前、ホリエモンやソフトバンクの孫さんが買おうとしてもできなかった。
 競争から守られている以上、公共的である義務が生じる。経営に関する情報がガラス張りで公開されるべきだし、番組編成方針も明確であるべきだ。代理店が企業からCMを出させるのに都合が良いから、高い視聴率だけを目指して番組の制作や編成をするのは、そもそも間違っている。
 ところが、東電の役員達がそうであったように、TV局の経営陣も自分たちがパブリックな仕事をしているという意識は薄いようだ。特権的な立場を獲得したサラリーマンのメンタリティなのかもしれない。テレビ草創期とは明らかに変わっている。
 以前「発掘!あるある大事典」という関西テレビの番組が、ヤラセ事件を起こして打ち切りになったけれど、根はもっと深くて、番組の影響力を利用した犯罪的な行為が日常的に行われたというのは業界では有名な噂だ。何故、全く報道されず、検察も動かなかったのか理由は知らないけれど。

●番組タイアップ楽曲の権利を押さえるテレビ局

 音楽業界との関わりで言えば、テレビ番組のタイアップになった楽曲の著作権の権利(代表出版)を、必ず放送局の子会社が得るという業界慣習がある。独占禁止法の教科書に出てきてもいいような「特権的地位の濫用」に当たると思うけれど、僕らもタイアップは取りたいから、やむを得ず「献上」している。数年前に、総務省が問題視したことがあって、その際に、僕も総務省に呼ばれて話をしたけれど、放送局側の説明が、支離滅裂でびっくりした。業界慣習に乗っかっただけで、何の理論武装もできてなかったんだな。
 フジパシフィック音楽出版や日音などは、素晴らしいアーティストを産み出すのに、TV局の力と関係なく、大きな功績がある出版社だし、素敵な音楽人も多い。お世話になった方もいらっしゃるし、放送局系出版社の存在を否定するんじゃ無いけれど、自社の番組に関連する曲の権利を「自動的に持っていく」のは、社会的なルールとして間違っていると今でも思う。「李下に冠を正さず」という考え方で言えば、その放送局の番組のタイアップ曲は、「系列の音楽出版社は権利を持てない」という逆の慣習にするべきではないだろうか?

●日本の番組は韓国のテレビ局では放送できない。

 いずれにしても、テレビ局は、(近年薄れてきているとはいえ)巨大な影響力を持ち、国の許認可権で守られているのだから、「視聴率がとれる」以外の、明確で、納得度の高い編成方針を持つべきだ。
 そういう意味で、高岡発言や、ネットユーザーのフジテレビパッシングには、一定の正しさがある。「いくらなんでも酷すぎない?」というメッセージとも言える。
 韓国は国を挙げて、戦略を持って文化輸出を仕掛けている。一方、韓国内では日本語コンテンツの放映には法的な制約がいまだにあるという不均衡がある。韓国政府への働きかけはもちろん、日本政府の仕事で、テレビ局の範疇では無い。ただ、韓流の好き嫌いは別にして、こんな状態で、韓流ドラマを過剰に放送する事に対して、公共性や日本の国益に反しているという意見はあって当然だと思う。これを機会にフジテレビが考え直してくれると良いと思う。
 花王の不買運動は、もちろんやり過ぎだと思うけれど、協賛企業にまで「攻撃範囲」を広げるのは、戦術としては正しい。テレビ局(と代理店)の弱点を突いているから。
 
●高岡さんは自分の職業を見つめ直して欲しい。

 ちなみに、高岡さんの言動を僕は支持できない。彼が真面目に考えているのは伝わっているけれど、言葉や行動があまりにも稚拙だ。そして、個人的には、プロの俳優であることの自覚が薄いこと、事務所を辞めたら俳優できない旨の発言を、残念に感じた。俳優は誰にでもできる仕事じゃないし、才能があるんだから、もっと大事にして欲しい。それに、俳優だから影響力があるという自覚も持つべきだね。
 ただ、幼稚な人の率直な発言だけに、人の心には刺さったのかもしれない。僕はあまりテレビは観ないし、特に平日の午後はノーチェックだったので知らなかったけど、韓流ドラマだらけの編成方針に辟易している人が多かったから広まっただろう。
 ちょっと逆説的だけれど、今回の事で怒った人たちは、まだテレビに対する愛情が残っている人たちだとも思う。
 こういう人たちが残っているうちに、テレビ局が意識を変えることに期待したい。
そうなると、このおバカな「祭り」も意味があったことになるよね。


●テレビ局も「送発電の分離」が必要


 フジテレビは、深夜放送を若手ディレクターに開放して、ヒット番組をたくさんつくった歴史がある。僕自身も元々は、テレビっ子世代だし、古い話になるけど、個人的には「カルトQ」が好きだった。


 日本のテレビ局には、ノウハウの蓄積があり、コンテンツの企画制作に高い能力がある。最近当たった日本映画に、テレビ局が座組の中心になっている事が多いのは偶然じゃ無い。新しい才能を取り込んだり、多様な出演者をバランスよくまとめたり、テレビ局を中心としたコンテンツ制作力は、群を抜くところだ。
 残念なのは、「電波塔を維持すること(=既存のビジネススキームを守ること)」が「視聴者にとって面白い番組をつくる」事よりも優位になってしまっていることだ。
 電力会社が、送電システムを仕切っているから、発電が画一化してしまったのと相似形に見える。
 前述の番組タイアップ曲の著作権の話のように、許認可で電波を持っているところが、その力をコンテンツ製作に及ぼす時には、デリケートな仕組みが必要だ。テレビ局は、高い制作能力を殺さないためにも、制作と放送は分離すべきだと思う。
 海外から注目されている日本のドラマやバラエティが、輸出ビジネスとして成功しないのも、日本で視聴率をとることしかプロデューサーが考えられないからだ。インターネットも含めた様々なメディアで、多様なコンテンツを流通させるようになれば、収益機会も広がるし、番組も豊かになる筈だ。
 日本のコンテンツの活性化のためにも、テレビ局の「制作放送分離」を強く望みたい。

3 件のコメント:

えり さんのコメント...

はじめまして。おおむね同意見です。私も今回の騒動はの根底には、日本のメディアシステムのいびつさと、健全な競争原理が働いておらず、業界の批判を誰もできないという部分への不満が、今一番推されている韓流へ出てしまったのではないかと思っています。

ただ、今回怒る方が多いのは、単純にコンテンツが韓流ばかりだからではなく、報道番組やサブリミナル手法などで、「何故か日本が貶められる」というような事例が同時に見られるからだと思います。
そして、その件について、フジテレビをはじめ有識者の誰も「考えすぎ」とするだけでまともに「何故考えすぎなのか」を説明しない。韓日戦などはホームがどちらかで決めてるだけという意見がありましたが、米日とも中日とも言わないなか、その説明は不十分でしょう。
また、テレビで韓国について批判的な発言をしたタレントは、(これが偶然だとしても)実際にテレビから消えている。→裏で何か圧力があるのでは?と感じるのも仕方ないのではないでしょうか。

逆にいえば、この韓流コンテンツ以外で騒がれている部分について、明確な説明が出来れば、納得する方も出てくるのではないでしょうか。

kiyoto_tokyo さんのコメント...

韓流偏向の事実を指摘している人たちの発言や,引用内容を確認されましたか?
我々が問題にしているのは,韓流ドラマが多いという点ではないのです。ニュース番組の背景セットに韓国の国旗を使用するとか,全く韓流と関係ないバラエティ番組のセットの一部になぜか韓国の国旗がおいてあるとか,タレントのコメントに唐突に韓国支持の発言が出てくるとか,ステルスマーケティングとしか思えない現実があるからなのです。
こうした事実をご存知の上,フジテレビの韓国偏向問題をトンデモというのであれば,あなたも韓国政府から広告宣伝費をもらって発言していると思うしかありません。

yamabug さんのコメント...

コメントをありがとうございます。私はフジテレビとも韓国政府とも利害関係はありません。ただ、音楽業界はテレビ業界と仕事をする機会はあるので、業界の仕組みは多少知っていると思います。
ネット上のすべての発言や引用を確認した訳ではありませんが、こじつけや感情的なものも多かったです。
もしかしたら、個々に韓国贔屓をしたプロデューサーや番組はあるかもしれません。そこに不正が絡んでいるかもしれません。だとしたら、それは個別に糾弾されるべきことです。
私の主旨は、テレビ局の意思決定システムは、もう少し複雑で、単純に韓国政府に乗っ取られたりはできない筈ですよ、と言うことと、根本の問題は、視聴率至上主義の経営であるということです。
今回の騒動でテレビ局が「ネットで騒がれたから韓国ネタは、しばらく控えよう」というような対応になるだけでは、あまり意味が無いと思っています。